ENo.0239　多々良　小鞠

なにが本当で、なにが嘘か――
――嘘とはなんで、本当とはなにか。

わたくしはこの十五週を、痛みとともに過ごしてまいりました。
そしてまた、未練とともに。

わたくしの世界から旦那様が失われてしまった、そのための痛み。
祈っても願っても届かないものへの未練。
わたくしのこころを埋め尽くすのは、そればかりでした。

けれど、ほんとうは違ったのでしょうか。

なにもかもがあべこべで、不確かで。
わたくしの記憶さえ、思い返せばあやふやなものでございます。
葬儀の記憶も、四十九日の法要の記憶も。

ただ、痛みと未練だけが、強く、強く焼き付いております。

そればかりがこの十五週、わたくしと旦那様を繋いでおりました。
きっと、そういうことなのでしょう。

でもたったひとつ、確かなこと。

わたくしは旦那様を愛しております。
旦那様も、わたくしを愛してくださいました。

どちらが失われたのだとしても、それは、変わらないこと。
いのちが終わり、世界が終わっても、永遠に。

なにが本当で、なにが嘘か――
――嘘とはなんで、本当とはなにか。

この十五週が偽りに満ちたものだったとしても。
そこにあった愛は、なによりも、本物でした。

――それは、さやさやと揺れる柳の下。

井戸の傍、女がひとり。
女は客を待っているようにも、ただただ無為に佇んでいるようにも見えた。
半ば伏せられた瞳と、かすかに開いたくちびる。

あなたは女に話しかけることも、そのまま立ち去ることもできる――望むまま。