ENo.0239　多々良　小鞠

世界の滅びまでの十五週。もう、半分を過ぎました。
それとほとんど時を同じくして、四十九日が過ぎ、忌明けがございました。
御位牌を用意する間の記憶は、ぼんやりとしております。
だって幽霊は未だ、このお屋敷に残っております。
極楽浄土へ、行かれたわけでもなく。

それはきっと、良いことではないのでしょう。
なのにどこかで、ほっとしているわたくしがいるのです。

幽霊として在ることは、さまよっているということなのでしょう。
それがなんのためなのか、わたくしには、わかりません。
未練を残すような方ではなかったと、そう、思います。
事実、幽霊は、恨みつらみを訴えかけることもございません。

いっそ、何事か訴えてくださればいいのに。
訴えてくださるなら、わたくしは、それを叶えてさしあげたい。
たとえどんなことであっても、わたくしはきっと従うでしょう。
そうしてさしあげたい。なによりもわたくし自身のために。

お店を開き続けているのだって、わたくしのためです。
わたくしが、この世界に、思い出に、滅びてほしくないのです。

けれど、わたくしの手元に残る稼ぎは、雀の涙ほど。
それも仕方のないこと。わたくしはもとより魔王の器ではございません。
つたない経営、つたない接客。
また、お店を開いている間にも、幽霊の影に振り返ることさえございます。
とても、大事なお客様をおもてなしできる手腕とは言えません。

気持ちが急いて、どうしようもなくなります。

幾人もの魔王さまがたが、滅びに備えていらっしゃることは存じております。
わたくしはその末席に連なっているに過ぎません。
きっと、わたくしにはなにもできない……いつもそうだったように。

わたくしはこの十余年、ずっと旦那様に手を引いていただいていました。
旦那様の手のひらの中で、ぬくぬくと生きてきたのです。
幼いまま、未熟なままでも許されてまいりました。
でも今、それではもう立ちゆかなくなって。

わたくしは、弱い。
わたくしは、愚かです。

その弱さ愚かさを、もう、捨てなければならないのでしょう。
たとえ、ひとりででも。

愛を弱さの言い訳にしてはならないことくらい、わたくしも存じております。
わたくしだって、愛はもっと尊いものだと、そう信じていたいのです。
そして、そうであるならば、わたくしは旦那様を言い訳にはできません。

ああ、それはなんと難しいこと。
わたくしの半生は旦那様と共にあり、旦那様があってのものでした。
わたくしは今でも、こんなにも痛切に旦那様を求めているというのに。

強くなりたい、わたくし。
旦那様に守られていたいわたくし。
どちらも嘘ではございません。
ほんとうの思いが引き裂かれて、とても苦しいのです。

実際のところどうしたらいいのか、わたくしにはわかりません。
祈りだけが、願いだけがそこにあります。
まるで不可解な幽霊のように。

――それは、さやさやと揺れる柳の下。

井戸の傍、女がひとり。
女は客を待っているようにも、ただただ無為に佇んでいるようにも見えた。
半ば伏せられた瞳と、かすかに開いたくちびる。

あなたは女に話しかけることも、そのまま立ち去ることもできる――望むまま。