ENo.0071　魔王【悲劇の王】

【登場人物紹介】
悲劇の王……えっメッセージのお返事が来たんです？（トゥンク）思わぬトキメキと共に飢えも追加された。何に飢えているのだろうか。
継ぎ接ぎの騎士……彼の仕事にメッセージ推敲が追加された。なんか昔もこんなことしてたような…（ｶｷｶｷ）。

【一言日誌】
お金が貯まってたのでチャレンジ違法１０００

【日誌】
　――喉が渇いた。
　悲劇の王(じぶん)がこれを夢だと意識した時に湧いた思考が、それであった。
確か、交代で仮眠を取らせて貰ったのだったか。頭を掻く、感覚は無い。
この箱庭で、意識（あい）だけは――現実よりもまともに動いていて。
辺りを確認する。穏やかな木漏れ日緩やかな鳥の声。そして、赤い空。
下にと黒いインクで満たされて。なるほど夢らしい、荒唐無稽な舞台装置。
ふと手を見ると、真っ黒に染まっていた。拭いても拭いても、取れないので諦めている。

　……眠ると、いつも同じシーンを見る。悪い夢、あるいは誰かのポップコーン。
深く、息を吐き……息を吸う。そうして背けていた目の前へと、視線を向けた。
彼女がいる。座っている。ごぼごぼと、泡音を立てて。彼女が。

「ごきげんよう、――マヤウェル」

　返答は泡音で。とろみを帯びた水の音。喉が渇いたな、と思った。
彼女の表情はわからない、というか首から上がないのだ。
首は無造作に落ちていてぷかぷか浮かんでいる、……前に拾ってあげたけれどくっつけることが出来ないので、もう諦めた。
　マヤウェル。マヤウェル・アップルゲイト。
大好きだった女。日だまりのようだった女。イロをくれた女。
自分の所為で死んだ女。自分の代わりに死んだ女。
自分に――呪いを押しつけた女。
　どうしようもなく、憎くて。だけどもどうしようもなく嫌いになれない、女の亡霊がそこに居た。
夢だとわかっていても、話しかける。昔から彼女と話すのは、好きだった。

「ええ、身体の方は元気ですよ。あっちが夢みたいな気分です、でも…こうしてまだみっともない生にしがみ付いています」
「ごぼごぼごぼごぼごぼごぼごぼ」
「あはは、そうです？そうなら嬉しいです。――君に会える日はいつ来るんでしょうね。…いや、来ないで欲しいです、永遠に。君のこと、また　したくない、ですから」
「ごぼごぼごぼごぼごぼごぼごぼ」
「あ、そうそう……君のこと生き返らせようとしたら、ふふ。君は来てくれなかったですよね。折角君と平行世界の存在達を継ぎ接ぎして、器を用意したのに……知らない人が、出来てしまいました。いや、彼とは前に会ったことが、あったかなあ……何回目かの死で…あったような」

自分は呪いの所為で――何回も、生を転々とした。いつかの世界では子どもだったかもしれないし、女だったかもしれない。何処かであったか？
しかし、思い出そうにも喉の渇きが気になって集中できなかった。
……眠る前から、なんとなくその感覚が消えない。

「夢の中で飲んでも、多分無意味ですよね。ああ、そんな。マヤウェルからあふれてくるソレなんて飲みませんよ。それで――彼、ルインっていうんですよ」

自身の唇をなぞりながら彼女へ語りかける。

「ふふ――最近はルインに怒られるからしないんです。しない、本当は何もかも壊したいんですけど。
君と同じ顔の彼には、嫌われたくない……でも壊したい、喰らいたい、消えたい…どうして」
「ごぼごぼ」
「目が覚めても、マトモにモノが考えられたらいいのになあ。ま、ここでもあっちでもきっと辿る文章は一緒ですけどね。あはは」

泡音が反響する、遠くでまた別の声がした。夢の外側から聞こえる声。
宙を見る、――がらんどうの真っ赤。そこには、白いカミと、黒いインクと、綴るモノがみえる。
白いカミは捲るように笑っていて、黒いインクはただただ己の罪業を書き記すだけだ。

「うるさい」
「うるさい、です。わかって…ます。わかって……俺は――」


「蛇継」

ハッと、意識が驚かされた。

彼女の思い出の声、――久しぶりに聞いたそれは凜と夜の風のように綺麗なままで。
「敵が来たわ、目覚めて。――ヘビツグ」

脳が空転する。視界は火に焼かれたように緩く溶け、自分の中の酷い飢えだけがそのままにシフトしていく。
ああ。
せめて夢の中くらい――彼女の笑顔を想起させてくれよ、と思った。

＊＊＊
目を開けると、マヤウェルに似た顔で彼が何故か心配そうな顔でこちらを見ていた。
……今、自分はどんな顔をしているのだろうか。笑っているだろうか、そういう呪いもあったなあ。
変な顔してます？というと、いや……と返された。
「まあいい。目は覚めたな、蛇継。――何かがおかしい、……来るぞ。勇者とはまた違う…敵が」
脳みそがドロドロに溶ける、インクを躙る。意味のある言葉は溶解し、それは腐敗し蠅が喰らうだろう。
ああ、――腹立たしいな。喉も渇いた。

「……良い夢を見ていたのに。許せませんね、行きましょうルイン。我が【悲劇の王】の領域をもって、おもてなししてあげます。それはそうとルイン、喉が渇いたので君の身体に蛇口を刺せば水とか出ます？」
「おう、今バケツに水入れてお前の頭にぶっかけるからな。覚悟しろ蛇継」