ENo.0019　種を蒔く魔王『ノイ』

魔王が死んだ。
黒い錆になって苦しみ藻掻きながら。
その不可解な死は魔王変異と名付けられ、噂はコズミックスフィアの隅々まで届いた。
新たな敵「カーテンコールの影」への対応に追われながら、魔王たちは死への恐怖を拭えないままでいる――。

「そもそも魔王って死なないんすか？」
「らしいな。というかその辺りはお前のほうが詳しいだろう」
「力はもらったけど、記憶までは引き継げないっすよ」

この世界に来たばかりのノイと猫様は、正直置いていかれていた。
エントランス――崩れかけた壁とまばらに残った石畳だけがある――の地面を掘り返しながらノイは首をかしげる。
たしかにあの死に方は妙だと思うし怖い。だがそれ以上に、魔王たちが「自分は死なない」と思っていることが驚きだった。
何でもありの魔王領域であれば死すら退けられると本気で考えていたのだろうか？

（だとしたら相当お気楽っつーかバカっつーか……）

ノイには魔王たちの感覚が分からない。
何なら心魂ナントカで組んでるあの人魚の話も半分くらい理解できていない。
魔王が栄えた時代のことも、暴力に彼らがどう滅ぼされたのかも、牢獄に籠もってまで復権のために足掻く理由も知らない。
所詮は巻き込まれた部外者でしかないのだ。

「なのにそこら中からからあれしろこれしろって……なーにがキュアを信じろだ絶対許さねえ……眼鏡クイッ野郎も肝心なことは話さねーし……！」
「探っていくしかないだろうな。頑張れ」
「猫様も探る側っすからね！？　他人事にしない！」

あの野郎、と呻きながらノイは掘った穴に種を放る。
土をかぶせてやると種は見る間に芽を出し、オレンジ色の葉が伸びてきた。これで仕事は終わりだ。
塀の上で日向ぼっこをしていた猫様が降りてくる。

「随分と違法性の高いユニットばかり並べるんだな。とうとうやるのか、ソウルブラスト」
「はい。今回の結果次第っすけど、これからは高違法で行こうかなって」

葉の匂いを嗅ぐ猫様に反応したのか、土が盛り上がって赤い根っこが現れた。
のそのそと這い出してきたのは小型犬くらいの大きさをしたイモリだ。体は赤からオレンジのグラデーションがかかっていて、尻尾の先は先程伸びた葉っぱがついている。

「よーし起きたなサラマンドラゴラ。エントランスの警備は任せた！」

くわー、と間の抜けた声をあげるサラマンドラゴラ。
尻尾を床に打ち付けたり、鼻息に火の粉が混じってるあたりやる気は満々のようだ。

「この城、植物だらけだろう。燃えないのか？」
「大丈夫っすよ。仲間は燃えないようにしてあるんで」
「……便利なものだな」

もそもそ土の中へ戻るサラマンドラゴラを見送って、ノイと猫様は城の奥へ向かう。
魔王変異も、新たな敵も、やられたら死ぬ点では今までと変わりない。
そう、何も変わらないのだ。

◆ENo15とENo19の二人ユニオンです◆

水族館のいきものふれあいコーナー、の名残。
タッチプールには生き物はいないし、海水だけが揺蕩っている。
種を蒔く魔王『ノイ』の力により、鮮やかな花々が咲き誇っているが、それすら墓前の花に見える。

【可能性の魔女】ルシュティエッタは、主にここにいる。