ENo.0022　悪運の魔王SFORTUNA

【勇者アデレードの回想】


私は当時魔王の城専門に盗みに入る勇者を生業としていた。
表は他の勇者に任せ裏口から侵入し、罠や闘技場を通ることなくお宝だけを盗って戻り、それを売るのだ。
勇者というだけで信用になったし、魔王の持ち物はそこかしこで重宝された。

そんな時、ある廃城の噂を耳にする。
その城には魔王が攫ってきた美しい姫君が眠るという。
それだけではない。数々の魔導書や、遺物、罠。市場に流せばよい値が付くものが保管されているという。

だがその城に行った者は誰一人帰っては来ない。帰って来ないのに何故そのような話が？
私は念入りに古の加護を編み込んだ衣を纏い。ありとあらゆる守護符を携え。
老いたウィスプから金貨一枚で聞き出したその場所へ赴いた。

城は静まり返っていた。罠もなく、護衛もなく、私はなんなく侵入する。

まず宝物庫で全ての蔵書を懐に入れ。
食器棚から銀合金製のカトラリーを手に入れた。

そうだ。
眠る姫君だ。

興味がないわけがない。勇者はいつでも眠れる姫を助け目覚めさすのだ。

重厚な石の階段を、尖塔の一番上まで上り詰めると、大きな扉があり。
城の入り口と同じようにいとも簡単に開いた。
純白の天蓋の掛かる褥。沈香の香り。
陽のない部屋に魔法を灯すと。

果たして、そこに姫君は居た。

「ち…」
思わず舌打ちをする。
確かに姫君は美しかった。死骸にしては。
傷みが少ないまま屍蠟化していたのだ。鼻を近づけるとチーズのにおいがする。もう目は覚ますまい。
姫君の眠れるチーズとして売るか？
それとも護符として切り売りするか？

しかし、その時私はこの屍蠟に火を付けてしまいたい気持ちになったのだ。

こんな風習がある。
『盗みに入る時、屍蠟化した人間の体に火をつける。
そのとき燃えれば成功し、燃えなくばそれは失敗する』

盗みに入るものにはよく知られた風習。私は自分の成功を占いたくなったのだった。

明かりにしていた小さな火球をじりじりと姫の額に近づける。
数分、数十分…。姫は燃えなかった。

「どうして」

そう口にした時。
私の首はもう地面に転がっていた。

（魔王出陣…）

床から舐めるように見上げた先には、おそらくこの城の主であろう『魔王』が。
私の手中の火球を吹き消すところだった。

悪い夢を見たら誰かに話すとよい。