ENo.0019　種を蒔く魔王『ノイ』

凍えるような風の中ノイは歩く。
石畳の欠けた部分を避け、木の根を乗り越え、蔦で埋まる壁の間を縫って進む。
いくつ扉を潜っても代わり映えのしない景色が続いていた。

「猫様、まだ追ってきてるっすか？」
「ひとまず振り切ったようだが……ここはどこなんだろうな」

猫様はノイのマントから顔を出して後方を見る。
いつも通りダンジョン探索をするはずが、先程テレポートの罠を踏んでからどうも辺りの様子がおかしかった。

「今日の目的地は人の手が入っていない洞窟、だったよな」
「ですね。こんなにしっかり道があるなんて聞いてないっす。うろついてるモンスターも見たことないし……おっと」

根の影に隠れたノイたちの側を、氷柱を従えた緑の光の珠が通り過ぎていく。

「なーんか引っかかるんだよなぁ」
「あのモンスターのことか？　確かに見覚えはないが」
「それもなんすけど、壁についてる蔦も変で。
これだけ茂ってるのに生気がないし『祈り』に応えてくれないんっすよ」
「……それは妙だな」

ノイが信仰する豊穣の神は、信者に植物を扱うための力を与えている。
豊穣神の『祈り』と呼ばれるその術は、種の芽吹きを早め、植物を自在に操るという。
『すべての草木は神の友。真摯に向き合い、祈りを持って呼びかければ、必ずやあなたの力になるでしょう』というのが豊穣神布教の決まり文句だ。

「神様の力が届かない植物なんてあったかな……」
「この場所自体に何かあるのかもしれないな」

ひそひそと話すふたりの前に光が灯る。
見れば、蔦に埋もれるように青い花が咲いていた。

「へえ、綺麗な花っすね」
「魔力のこもった花か。こらノイ、そう軽率に手を出すんじゃない」

手を伸ばすと花はいっそう輝きを増して――


《ぼくの＊＊は、けして、無駄じゃなかったと》


祈る声が聞こえた。

◆ENo15とENo19の二人ユニオンです◆

水族館のいきものふれあいコーナー、の名残。
タッチプールには生き物はいないし、海水だけが揺蕩っている。
種を蒔く魔王『ノイ』の力により、鮮やかな花々が咲き誇っているが、それすら墓前の花に見える。

【可能性の魔女】ルシュティエッタは、主にここにいる。