ENo.0001　朝焼け3時の魔王『ターピ』

翌る日の早朝、朝焼け3時の魔王ターピは膝を抱えていた。


「おなかすいた……」


「は？さっき食ったばっかだろ」

その幼い駄々っ子あるいは白痴の老婆のようなつぶやきに返すのは精悍な青年、魔王のしもべモーヴェ・カロン。

「空いたものは空いたのじゃから…」

「…いや、おかしいぜあんた」

「様付けで良いぞ」

「嫌だね」

器にカレーを盛ると、おたまが大鍋の底を引っ掻く音がする。具材は少しの玉ねぎと香りづけに入れて取り出さなかったハーブが残っているのみ。
その間にターピは、自分でコップに水路の水を汲んでかぷかぷ飲む。

「おかしいだろ。どんな魔王ったって……カレーの鍋一つ開けたりなんかしねえ。このペースとユニオンのメンバーのことを考えたら食費が持たねえ」

「しかし…」

しもべの作るカレーは、500年前とほとんど変わらない味をしていた。レシピを書き留めたりは、していなかった。

「やけに喉が乾くし……ずっと、物足りない。滑車を回すビーストもかような気持ちなのやも知れぬ」

「オレが今まさに滑車を回すビーストだよ…オレは帰りたいのに……」

「まあ、魔王領域からお主が出たらその肉体の保証も、ここから帰る保証もゼロになるがのう、モーヴェ」

「ちっ」

…からっぽの皿が差し出される。

「……おかわり」

「もう無ぇよっ！！！」

おたまが鍋をガンガンと叩く金属音が響いた。




____彼女の魔王城には、木々を取り囲むように水路が張り巡らされ、その成長を妨げないよう別の植物は一切植えられない。木肌の影に、罠が所狭しと張り巡らされ。

シュラを纏うゴーストとビーストが、木漏れ日の下。何かに『飢え』て蠢いていた。

あらゆる種類の木々がねじれ、取り込まれた一本の大樹が生えている。 焦げかけの看板に『プランタ・タルタリカ『ルマ 』・バロメッツ』とあるが特に羊が生えてくる様子はない。
様々な形の葉が作る木漏れ日の下にあるハンモック、はめ込まれた丸い窓。ごつごつとした木肌葉が黄色赤に色づき、時々あるところから甘い香りの煙が立ち上る以外このツリーハウスに変わった様子はないようだ。
朝焼けを浴びると燃えるような輝きを見せ、ぱきり、ぱきりと樹が伸びる音がして、目覚ましがわりになる。正直早すぎる。