ENo.0056　ありふれた白紙の魔王

　魔王は、死ぬ。
　にわかに流れ始めた噂が広まるのはあっという間で、それは他の魔王と大した連絡を取っていない俺のところにまで伝わってくるほどだった。
　ただその動揺の原因が、正直なところ俺はよくわからなかった。
　こんなにも驚かれているということは、魔王は死なない、と皆どこかで思っていたということだろう。
　魔王の力は相当に何でもありだ。魔王領域に相応のものさえ収めていれば、その魔法はありとあらゆることを可能にする。だからだろうか。
　死にたくない、と強く強く願っていれば、魔王は死なないと。皆どこかで思っていたんだろうか。

　そういうことをいつもの彼女に言ったら、
「そう、つまりはそういうこと」
　と全肯定された。ついでに聞いてみたら、彼女は結構驚いた方なんだそうだ。
　ただ考えたこともなかった、というわけでもないことは付け加えていたが。

「魔王を始める人もいればやめる人もいる。当たり前のことよね。
　やめた人と亡くなった人って、区別がつかないから。姿を見せなくなった魔王って、てっきり魔王をやめちゃったんだと思っていたけど。その中には、亡くなった魔王もいたのかもしれない」

　そういう意味では彼女なりに思うところもあったのかもしれない。
　ただそれをどこまで考えたものかは、これまたよく分からなかった。
　詳しい話をする前に彼女はこちらの肩を掴み、

「大丈夫、あなたには私がついてるから！」

　と言うその強引さは相変わらずだ。
　よく聞いたら魔王が死ぬというのは、魔王自身が勇者の前に立った時の話らしく。護衛の自分がいれば別にそんな予定も立たないだろう、ということだった。
　まあ女の子にそういうことを言われて嬉しくなかったと言えば嘘になる。そうは言ってもどうにも頼りにならなそうな感じは、これまでで嫌と言うほど感じているけれど。