ENo.0254　惑乱する月齢の魔王『アルリアクルリア』

背広を着た一羽のウサギがダンジョンの廊下で立ち止まる。首元のネクタイで額を拭い、思案げに長い耳をぴくぴくと震わせる。胸ポケットから懐中時計を取り出す。時計には数字が15振られている。針は12を指している。短く三度舌打ちする。二度跳ねる。そしてまた駆け出す。罠が作動する。矢が飛び交う。落とし穴が開く。硫酸が流れる。岩が転がる。そのどれもウサギには届かない。けれど行く手の先からドラゴンの群れ。後ろからはジャイアント。ウサギは行きつ戻りつする。壁に手をつく。穴が開く。ウサギはその穴に飛び込む。穴がふさがる。短い次元跳躍。そうして魔王が瞼を開ける。月世界。暗い闇に星々がまたたく。魔力炉でENの光が燃える。メルサリアのグリスター・ユニットに接続されてある。返礼として月世界に魔術がかかる。与えられたものには支払わねばならない。その理から逃げられない。あるいは逃げられないふりをしている。魔王は笑う。だが逃れられないものなどない。ウサギはどこへでも去っていく。

月世界。