ENo.0254　惑乱する月齢の魔王『アルリアクルリア』

　　　『アンデライト』の嫌われた猫が鳴いている。
　　　こんな夜にはそれが聞こえる。
　　　月世界に猫の歌はよく響く。
　　　猫の言葉はわからない。
　　　架空された統語が青ざめる。
　　　擬制が人になぞらえる。
　　　音韻が支配をたぶらかす。
　　　それは歌ではない。
　　　猫の声ではない。
　　　猫でさえない。
　　　誰もそれを知らない。
　　　認識がある。存在がある。現象がある。
　　　どれもばらばらに錯綜して実像を持たない。
　　　この月世界でも。
　　　どの世界でも。
　　　存在したものと存在しそこねたものが部品として巡り合う。
　　　統和される。
　　　失調された完全性が恢復する。
　　　身を起こす。虚偽として。詐術として。
　　　かくしてアセンブリはアセンブルされる。
　　　魔王は問う。勇者は答えない。
　　　魔王だけが問いかける。
　　　疑問符は剥離して傷つける。
　　　答えのない火が燃え続ける。
　　　猫の声はここにない。
　　　精神が現象を仮定する。
　　　咬合した仮定が実存する。
　　　イグジストンス。はかなくも希望に満ちた。
　　　約束され期待は待機する。
　　　勇者は勇気を揮う。
　　　にもかかわらず壮大は倒壊する。
　　　売買は他者を理想する。
　　　呼びかけはお前に辿り着く。
　　　小鳥は世界内に自閉する。
　　　空疎な到達を仰ぎ見る。
　　　止まり木は志向性を赦す。
　　　志向性は到達を赦さない。
　　　現象は寸断され存在は自由に縛される。
　　　呼びかけはお前を夢みていた。
　　　猫は小鳥に到達しない。
　　　止まり木は無瑕に横たわる。
　　　小鳥さえない。
　　　実のところもう世界は存在しない。
　　　お前もまた例外でない。
　





　

月世界。