ENo.0001　朝焼け3時の魔王『ターピ』

____まなこをひらくと、そこには何もなかった。


焦げたかおりが鼻腔を一時的に満たす。
村にあった金銀その他、お金になるものを動く白骨が運び込み、大樹の根元にそれは山と積まれていた。

「……いい加減、満足かよ」

炭と金を分けて運んでいたモーヴェが後ろから声をかける。
その顔は煤に塗れていた。

「オレも戦って稼いだクチだ、原理は同じなんだ」
「でもよ」

モーヴェの羽の生えた腕に、それを擽って遊ぶこどもがひとり。

「どうして、ここまでに……」
「そんでもって、なんで、こんな事……」

とっくに、日々の食事だけで『それ』は満たされなくなっていた。自らが村を燃やした魔王である事を隠して、彼女は『戦災孤児』を城へ招き入れ、水路の水を温めてくぐらせ、モーヴェの替えの下着を勝手に着せていた。

「私が、満たされるためじゃよ」

「なんなんだよ」

その行為で何を満たそうとしているのか、モーヴェには分からなかった。


「もうそれ以外に、私の定義がないのじゃから」


戦災孤児の腕には、火傷の跡が羽のように並んでいた。
おいで、と魔王が呼びかければ、その子供は魔王にとたとたと近寄る。

「お前さんも、あの子に似ている…だからここに呼んだのじゃ」

「さて、これからは……何で私を満たそうか」

かつて失ったしもべに似た、強い魂も。
金銀を蓄えた豊かな村に『羨望』の炎を向けて富を得る事も。

どれほどやっても、おなかがすく。
彼女は悪霊のように、城をさまよっていた。




それを見ていた、元亡霊もまた。

「好き勝手やりやがって、まだ足りないなんて」

「オレだって……帰りたいよ」

懐かしい名前を、『魔王』たちから聞くたびに帰りたいと思った。ここでの生活は残像領域よりも厳しくはないし、食事をする楽しみもある。しかし、それだけでは『おなかがすく』。そう、物足りない。未練は、そうそう満たされない。


「ターピも」

「オレとおんなじ…なのかな…」

テーラードジャケットは、セーラー服より窮屈に感じたが。
その服装で青年は今日も任された通り、ターピの部屋の掃除に向かった。

あらゆる種類の木々がねじれ、取り込まれた一本の大樹が生えている。 焦げかけの看板に『プランタ・タルタリカ『ルマ 』・バロメッツ』とあるが特に羊が生えてくる様子はない。
様々な形の葉が作る木漏れ日の下にあるハンモック、はめ込まれた丸い窓。ごつごつとした木肌葉が黄色赤に色づき、時々あるところから甘い香りの煙が立ち上る以外このツリーハウスに変わった様子はないようだ。
朝焼けを浴びると燃えるような輝きを見せ、ぱきり、ぱきりと樹が伸びる音がして、目覚ましがわりになる。正直早すぎる。