ENo.0081　焼却された紫の冠を頂く異邦の君

カブリールがこの世界で生まれ変わって、変わったことが幾つかある。
一つ。頑丈、かつ可変式になった体。カブリールは三つの姿を得た。
十代前半とおぼしき少年の姿。
三十代半ばから後半にかけての壮年の姿。カブリールは基本的にこの姿をとる。
裂けた口と無数の脚（のような腕）を持つ異形の姿。
共通するのは、血の色に変色しながら伸び地面に届いてなお余る黒髪、鳶色に赤がにじむ瞳、尖った耳、そして頭部から生えた紫水晶に似た角だった。

この角が厄介だった。
最初の頃は頭の上に角が生えていることを意識できておらず、また壮年の体は身長が180cm程度あったため、角のサイズを含めると大体2m程度の高さになっていた。それを考慮しないで住処を歩き回った結果、カブリールは度々したたかに角を鴨居にぶつける羽目になった。
この角は頭蓋骨から直に生えているようで、ぶつけると脳天まで響くような振動がカブリールを襲った。そこまで痛みはないが、いかんせん脳と首にかかる負担が大きすぎる。何度かの手痛い失敗を経て、カブリールは住処の中で微妙に身をかがめて歩き回る癖を身につけた。どうしてもうまくいかないときは少年の姿になった。この姿になると背丈が低いからぶつからないし、頭部の角も小さくなるのだった。そのため、眠るときは少年の姿をとっている。壮年の姿だと角が邪魔で寝返りが打てない。
鴨居にぶつけたときに角が欠けたこともあったが、どういう理屈か一晩か二晩すると綺麗に修復されていた。気にかかって角の欠片を分析にかけたが、鉄をわずかに含む二酸化ケイ素という結果しかわからなかった。
二酸化ケイ素、つまり水晶と同等の物質である。そんなものが頭から生えている理由も、欠けたのに二日程度で再生するのも、そもそも勝手に再生するということ自体も理解できなかったが、カブリールは途中で考えるのをやめた。ここではカブリールが生きていた世界での常識は通用しないらしい。

面倒ごとばかり多いこの角だが、心魂結束を結んだフレデリクがいたく気に入ってくれたのは（彼は宝石に目がない）そんなに悪い気はしなかった。

城の片隅にあるカブリールの自室。魔王のそれとは思えないほど質素だ。
粗末な机と椅子、古びたベッドのほかは、大量のほんがつみあげられている。