ENo.0035　北風の魔王『ターピ』

「店長？」

『』

「てんちょ〜う？」

『』

「てんちょ……ターピ様？」

『』


「あの、もう出店の時間が」

『』

「今日はしぶといですねえ…困りました。これではランズさんに見せる顔もありませんね、店長」

『』

「レユーサさんとカレーを作ろうと思っているし、僕の新しい弟を紹介したいし、イチノさんともお話ししたいんですよ」

『』

「とんぼさんやラニカさんも、新しく来てくれたリタさんにだって…」

『』

「…ほんとのほんとに」

『』

「聞いてます！？」

『』


「店長っ！！おきてくださーーーーい！！」



『』



…その日、ツリーハウスに取り付けられた風見鶏は全く動くそぶりを見せず。
数値で言えば、1%を記録していたらしい。

今日の店長はまるで…死んでから数日置かれたような死体のようにふにゃふにゃと重くて、床に張り付いて眠りこけていた。いつものように浮き上がる力もなさそうだった。

…なんかもう、どうしようもない。という確信で僕の胸はいっぱいになったので、今日は僕ひとりで店番をすることにする。



今回はいつもより時間があったから、僕ひとりでもどうにかなった。

部屋で（読んで字のごとく）羽を伸ばしながら、先輩魔王たちのニュースを聞く。

ここに来てから、いつしかこれも一つの楽しみになっていた。


最近のお気に入りは、レヒルとかいうヒト。難しいことはわからずとも、眼鏡ｸｲｯ、の音が面白くてたまらない。

『（眼鏡ｸｲｯ）海はいい……（眼鏡ｸｲｯ）広く、やさしく、時には猛る』

よくわからないことばかり言うカガクシャのレヒル。
でも、今日の話はとても、共感できるじゃないか。

そう、僕も海が大好きだ。
空と違う青が、船が水面を裂く時に現れる白い波が、
時に荒れ狂い僕に覆いかぶさって来た水飛沫のひとつひとつまで。

『（眼鏡ｸｲｯ）そして我々は、圧倒的な水量にただ圧倒される（眼鏡ｸｲｯ）』

…そう。今日のレヒルは敵ながら最高じゃないか？

…ただ一つ、海に対して気に食わないことがあるとすれば。

海には魔物がいて、それはとても強く、僕たちは犠牲を出してでもそれを仕留めなくてはいけない。

霧の中で何も見えなくて、撃ち合ったり切り合ったりする音が聞こえて、

よく分からないままに引きずり込まれて、次に見つかる時には浜辺に



…


羽と骨と蝋が






『…（眼鏡ｸｲｯ）』

…はっ。寝てたかもしれない。レヒルのニュースが終わっちゃった。

あらゆる種類の木々がねじれ、取り込まれた一本の大樹が生えている。

『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』と書かれた看板があるが特に羊が生えてくる様子はない。

様々な形の葉が作る木漏れ日の下にあるハンモック、ごつごつとした木肌にはめ込まれた丸い窓。




これは『気品』ある、巨大なツリーハウスだ。


・気品ユニオンをします
・ツリーハウスへの来訪、宿泊、生活が可能です
・カントリーな雰囲気のおうちライフが楽しめます
・火気許容状態