ENo.0035　北風の魔王『ターピ』

【こんな日が来るのはわかっていた】
【夢の中«しゆうかい»で、何度も予見した(みた)夢だから】


「……くぁ」
捻れたネムノキの木の枝で眠っていた少女が目を覚ます。
細く伸びた蹄の脚をふらりと伸ばし、ふわふわと地面に軟着陸する。

「…お店……ふぁ…」
今日から金と暴力の日々が始まる。分かっていても、正直、23時間と30分とそれ以上寝ていたいというのが彼女の本音なのだ。
実際、用意らしき用意はほとんどされておらず、乱雑に品物が転がっていた。

「むう」
いかにも不満げな声を漏らす。
しばらく寝転がる体勢のまま浮遊して何かを考えること数十分。

彼女は観念したのか、邪魔な品物を退けて未開封の在庫を開け始めた。
……船を漕ぎながら、だが。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「ふぁ〜あ」
ひときわ大きくあくびをし、ひときわ大きな、丈夫な箱に蹄をかけてゆっくりと開く。

そこには、大きな瞳で彼女を見つめる、ハーピーのような少年が収まっていた。

「……？ハーピーなんて雇った……かのぅ…」

くせっ毛で片目を隠した少年は、首をかしげたままおずおずと聞く。
「あ、の。ここは何処で、貴女は何者ですか？」

「……なに？」

「ごめんなさい、不躾な質問で。でも、本当に色々とわからなくて……」

「ほうぅ……」

彼女は、『魔王』は眠い頭ながらひとつ閃いたことがあった。
＿＿これが自分の雇ったハーピーなのか何なのか自分にも検討はつかないが、今後の睡眠時間と千客万来のためなら今少しくらいは喋ってみよう、と。

「……よかろう……私こそが、…永遠の眠り、北風の魔王、ターピ……この四城半の世界を世に知らし…め……ぁふぁ…(目をこする)金と風がめぐるこの世界に蹄のあとを…深く刻むのじゃ……」

「…貴女は魔王…つまり僕は？」

「うむ。……魔王のしもべにして、『店長』のしもべであるぞ」

その言葉を聞いた途端、少年は目を輝かせて箱から飛び出してきた。
「魔王…！そして、僕は貴女のしもべで、店員というわけだったんですね！ああ、なるほど分かりました！良かった、ずっと何が何だかわからなくて不安だったんです！」

「そ、そうかの」

これが「すりこみ」というモノなのか。
ターピはいつの世かに聞いた産まれたばかりのひよこの話を思い出していた。

「んぅ……」
「あとは頼む…なんかこう…わかるじゃろ…そういうわけでおやすみ」

あと一瞬でも眠気を振り払おうとしたが、(彼女の基準では)一気に喋りまくったあとではほとんど続くことはなく。次の瞬間にはぐうぐうと寝るだけの魔王へ逆戻りしてしまった。

「えっ？寝ちゃうんですか？……店主たるもの、一緒にやるんじゃ…ねえ、魔王様、いや店長？」

「…………」
返事の代わりに鼻ちょうちんを出した。

「て、店長ぉぉぉぉ！！！」

あらゆる種類の木々がねじれ、取り込まれた一本の大樹が生えている。

『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』と書かれた看板があるが特に羊が生えてくる様子はない。

様々な形の葉が作る木漏れ日の下にあるハンモック、ごつごつとした木肌にはめ込まれた丸い窓。




これは『気品』ある、巨大なツリーハウスだ。


・気品ユニオンをします
・ツリーハウスへの来訪、宿泊、生活が可能です
・カントリーな雰囲気のおうちライフが楽しめます
・火気許容状態