ENo.0194　鍵原ユキと天眼石蝶也

例えば。
ユキくんは、探している親戚さんが帰りたくないと言ったらどうするのとか。
変わり果てた姿で見つかったら、それこそ右足以外、四肢どころか様々なところがなくなっていたら、どうするのとか。
形すら変わり果てて、どろどろに溶けていたり、虫に食われて穴だらけになっていたら、耐えられるのかとか。
……八割は、訊いても仕方がないことだった。だってぼくは、彼の親戚がどうなっているか、知っている。

材料、顔写真と、一晩満月に当てた水。万が一彼が変なものを見てしまったらいけないと、先に鏡を覗いて見えたもの。
眠る四肢のない青年と、寄り添う人影。
――ひどく憎らしげな目で、こちらを睨んだ、人影。

最初は偶然だと思った。でも一分間視線を合わせて、気がついた。あの閉じた空間で、なにもないであろう場所をいつまでも睨み続けるものか。

「(……やっば)」

こちら側を見られる人間が、真っ当な人間であるものか。さっさと見るのをやめて、彼には何も見えなかったと言おう。それがいい。
そう思った矢先に、睨む瞳が、口を動かして――鏡が、割れる。
貴重な鏡がとか、言い訳どうしようとか、そういう気持ちもあったが、あの時ぼくはぼんやりと、人影が言った言葉を思い出していたのだ。

『邪魔をするな』



……ちなみに、割れたのは向こうがなにかやったわけではなくて、ほんとにうっかり、慌てて落としただけなのは、内緒。


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日誌 記録者：鍵原ユキ

け、結局訊きたいって言ってたことも、話したいって言ってたことも何にも言ってくれなかったっす！！！！！！
いや確かに別にとは言ったけど、思わせぶりで終わっちゃうのはちょっともやもやするっすよ。ううう……。
まあでも、言ってくれないことは仕方ないっすからね。無理に聞き出すのもなんかアレっすし……。

ところで、もしかして世間ではゴールデンウィークの時期じゃないっすか？いいなあ。オレ休みないんすけどね。
昔ははしゃいで色々行ってたっすね。お祭りとか、意味もなく遠出したり、クラブイベント……。
……最近ハコ行ってないっす。というかハコがないっす。ちょっと恋しいっす。
秘密の部屋とか改造してハコにしちゃダメっすかね？ダメか。ダメっすね。

しっかし、長いことここにいるような気がするっす～。前回はこのくらいで帰れたはずなんすけど、今回はそれより長いっすね。
15週で世界が滅びる、だっけ。……もうちょっとっすね。滅んだらどうなるんすかね……。帰れるといいんすけど……。死ぬのはやーっす。
……もしご親戚さんがこの世界に居たら、一緒に滅んじゃうんすかね？こ、困るっす……。
どうにか、できるかなあ。できたらいいなあ。