ENo.0128　名も無き死者の王

愛する人が死の縄目に捕われたとき、誰もがそれを解きたがる。
理不尽な災厄が降りかかると知っていて、受け容れたがるものは少ない。

かつて僕たちは人の運命に干渉するすべを持っていた。
だが度を越した干渉は自身の運命を現世から弾いてしまう。
通常の生命の律から外れ、正気を失ってしまった者たち。
これはエコーと呼ばれている。

僕たちは大切なものが失われてしまうかもしれないとわかったとき、
どうすればいいか知っていた。
自分自身など欠片もいらないと思っていた。
でも、……

《名も無き死者の王》。
彼はそういったエコーを束ねていた者で、彼自身もまたエコーだった。

エコー。
残響。
本来は存在しない者。
お互いに語りかけることで、実在性を限りなく高めようとしていた。
死者を演じることで、死者を蘇らせようとしていた。

それは滑稽なことかもしれない。
だが、誰がそれを笑う権利を持つだろうか。
持たないはずだ。

真っ暗な空間。
死と生のあわいにある場所。猶予の領域とも呼ばれる。
生きた何かが来ると正気がグニョ～ンと引き伸ばされて
あたまがおかしくなってしぬ。
なんか死んでるか狂ってるかしている魔王なら大丈夫。

「頑張ってこの世界から生のシステムを取り除きましょうね」

周囲には誰もいない。