ENo.0073　王国軍とりで

　記録兵の青年は今日も記録を綴っていた。
　訓練のその場所で。　勇者との戦いの場で。　奴隷的労働を強いられる人形師達の作業場で。
　昨日までと打って変わって普段の個室で彼がペンを持つことはなかった、許されなかった。

　軍長その人に彼のそれが兵たる責務を果たしてるに足りえないと捉えられたが故の命にほかならない。
　命を果たさねば、責務を果たさねば、駒たる役を全うせねば　廃棄処分　する、と。

　『廃棄処分』の意はこの国の軍のものなら嫌というほどに知り尽くしていた。
　志願ないし徴兵されエーベルハイト軍長の直属もしくは　その人の目のゆく場所に配属されたが最期。
　死闘を尽くし戦いに命を捧ぐか、命を全うしていないとみなされ廃棄されるかのおおよそどちらかだ。

　冷血レヴィア、血も涙もない悪魔などとその脅威にさらされ続ける者たちは陰で呼ぶほどに
　この軍長の存在を好く思っている者はいなかった。
　あわよくば、同志たる数多くの兵などではなく、軍長の戦死を日々願い続けていたほどに違いない。

　この国の軍事は自動人形により行われ、人は　兵は死の恐怖にとらわれることなどないと
　入隊前の彼らはみな信じていたのだから。

”あの人はなぜこの砦におかれたか、わかっているのだろうか
　それがわかっていたらこんなところに送られてないだろうな。

　それ以上に僕たちにもここにおかれてしまった理由があるのだろう。”

　愚痴ばかり記された、ぼろぼろの日誌帳をまた汚しては今日も彼は彼はくだらないことをぼやく。

「ピーマンの肉詰めが食べたいよ……」

　その口から洒落た、この場をひと時でも輝かせるような言葉などでやしない。
　うわべつらのただただくだらない欲求。　それそのものがあるだけ、まだ彼は、彼らはきっと……
　それさえ失ってしまえば。　それさえ失った人というものは、生命は



　――はてさて何の話やら。

笑う門には福来る　即ち勝者たるもの高らかに笑え