ENo.0008　リバイス・バハムート

「《深刻なエラーが発生しました》」

　パノラマの全景すべては氷漬けになっていた。
　元は水族館か何かだったのだろう。多種多様な魚介類、イルカやクジラが海中で静止したまま動かず、生きているとも死んでいるとも分からない状態で保存されている。
　ソファーの上に行儀悪く座り込むのは白竜の尾を持つ女だった。山羊の角で周囲を威圧し、ハイヒールを履いたままの脚を手もたれにかけながら寝転がっていた。

「《ただちに履行してください》」

　その喉奥から、女のものと思わしく機械音声が響く。

「《ただちに実行してください》」

　機械音声が響く。
　機械的な声だった。合成的な意味ではなく、ただ冷静に、耳障りが良く透き通る音。
　悩まし気に女が首をもたげた後、やれやれといった風に肩をすくめて立ち上がる。
　白磁の肌と見紛う程の純白のドレスと、足元を覆う軽鎧が相反して音を鳴らす。

「《システムを実行してください》ご安心を」

　機械的なアナウンスとは別に、唇から紡がれたのは優しい声色。冷たい目線とは裏腹の丁寧な物言いだった。動作はきびきびとしていて足取り一つをとっても淑女然としていながら、声色はひどくやわらかなものだった。

「世界の救済をここにもたらしましょう」

　魔王は、この世界に魔王の宣告をガラス越しに映る生物達に謳った。