ENo.0082　フレデリク・ルース

　
フレデリクは怠惰だ。
己の興味が行動の原動力である。つまり興味のないことに対しては徹底して無関心になる。
『魔王』にも『魔王稼業』にも、実のところ興味がない。それなのになぜ魔王であるのか。

（魔王である、というのは単なる結果論だな……。しかし、それだけならまだしも……）

ため息まじりに寝椅子の上で身を捩る。
肩から上掛けが滑り落ちそうになったのを、手袋に包まれた手がゆるゆると伸びて、引き寄せる。

きぃん、と耳鳴りのような音がする。胸の奥から。
冷たく響くその音は、急かすような叱るような雰囲気を漂わせているように、フレデリクには感じられた。

（……それだけならまだしも、『ゼロのレガリア』か）

もう一とため息をついてから、いやいや起き上がる。手入れをしなくとも伸びもしなければ荒れもしない銀色の髪がさらりと揺れた。切りそろえられた髪の裾も乱れない。ぐしゃぐしゃにかき回しても、さらさらと流れ、澄ました顔で元の形に戻る。
伸ばそうと思えば伸ばせる。
しかしなんとなく、この髪型のままだ。
『人間だった頃』と同じ髪型。

（……分かっている。解っている。でも、宝石を眺めてからでいいだろう？）

寝椅子の背凭れに寄りかかりながら、目を閉じ、言い訳じみた思考を巡らせながら小さくあくびを一つ。

するとまた、胸の奥からきぃんと冷たい音がした。
　

突如現れた薔薇の咲き乱れる小さな庭と四阿。
四阿の座席にはいくつも宝石が転がっているが、魔王の許可なくば屋根の影の落ちる範囲から持ち出すことはできない。