ENo.0194　鍵原ユキと天眼石蝶也

思い出す。思い出す。妹のような存在だったあの子のこと。大切だったあの子のこと。助けられなかったあの子のこと。
録音された悲鳴と救いを求める言葉と、ボロボロにされても尚、きれいだった亡骸のこと。

また暗闇のなかから瞳が見ている。声が聴こえる。首筋に手を置いている。

『にいに、どうしてたすけてくれなかったの』

ごめんね。ごめんなさい。不甲斐ないにいにを許しておくれ。

何度謝ろうと死者は戻らず、影は消えない。けっきょくぼくにできることは、なにもないのだ。




「店長、店長、起きるっすよ、朝っす」
「んー……なんだいユキちん、まだ早朝だよお。寝ててもよくない？」
「いや、その……めちゃくちゃうなされてたっすから、起こしたほうがいいかな～って……」
「じゃあ起きたし二度寝していい？いいねえ、ネコは寝るのが仕事だからねえ」
「あとチョコ！チョコが枕元にあったっす！これきっとバレンタインの」
「それユキちんが寝てる時にボクがこっそりおいたの。ちょっとうれしくなったでしょ？」
「寝てもいいっすよ」
「そう？じゃあおやすみ～」

「(ああ、)」
「(現実に戻ってこられて、よかった……)」



「(や、ホントにここって現実かなあ……？)」

まあいいや。

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日誌 記録者：鍵原 ユキ

日誌つけ忘れてたからこっそり早朝につけてるっす。ちょっと店長……チョーヤさん起こしちゃいけないから、小声でやるっすよ。
まず言うんすけど、横暴っす。ちゃんと働いてほしいっす。
というかバイトに8割店任せる店長ってなんすか！！いや自分も店長なんすけど！！もう！！
……大声出しちゃったっすね。ま、まあ怒られてないから大丈夫。
あとオレもチョーヤさんのこと特にタイプじゃないから、安心してほしいっす。

んーと、お店は……あ、おじさんがいっぱい来て、いっぱい買ってくれたっす。
……護衛の子たち、よく見たらおじさん攻撃しようとしててちょっとなんとも言えない気持ちになったっす。
区別つかないのかなーって思ったっすけど、多分護衛さんたちに取ってはお店入る人みんな侵入者っすね。
オレもチョーヤさんも立場的に魔王っすし、ここも言っちゃえば魔王城っすから……。
……改めて確認するととんでもないなあ。

あっ、これ内緒なんすけど、この前バレンタインだったじゃないっすか。
今日起きたら枕元にチョコ置いてあったんすよね。美味しそうなやつ！
きっとどこかの魔王さんからの贈り物っすよ！あとでチョーヤさんにも自慢しちゃうっす。ふふん。

そういえばさっきから横の壁の向こう側でチョーヤさんのうめき声聞こえるんすよね。
……起こしたほうがいいっすかね……？