ENo.0272　レンズのお兄さん

「何してるんですか？」
「凸面レンズをね、磨いてるんだ」
「……？」
「凸面レンズ。レンズの一種ね。光に関する実験で扱ったことがあるんじゃないかな？」
「いえ……私が聞きたいのはそういった一般的な説明ではなくてですね。なんで商品の陳列をしないんですかってことなんですけど……」
「あ、いい感じに綺麗になったよホラ」

「あの……」
「だって君が商品の陳列やってるじゃない」
「陳列を手伝ってほしいんですよ！ 教授なにもやってないじゃないですか！」
「えー。でも私ほら、被り物してるから細かな作業とか向いてないんだよね」
「多分その被り物してる限り、大方の作業は向いてないですよ。だから外して、一緒に、行きま、しょう」
「コラコラコラ、引っ張っちゃだめだよ。ていうかこれチャック式だから引っ張ってもね痛い痛い痛い」
「もしかして、なんでこんなことしてるのか忘れてたりしないですよね？」
「助手くんねー。この被り物は視界が限定されるだけであって、記憶まで限定されるわけじゃないんだよ？」
「……（無言で引っ張る）」
「ははは元気だなー。けれど表情筋は元気じゃないみたいだね、真顔で力むと体に悪いよ」
「分かった分かった。はいこれあげるから」

「これは……」
「用意した虫眼鏡だよ。まあ、凸レンズの親戚というかそんな感じ。使いやすさ以外にも、レンズをはめ込んでいる枠が境界の代わりになってるから良いよねっていう」
「一応なまけてたわけではなかったんですね」
「まーね。運ぶのは面倒だから用意だけね」
「んじゃ陳列よろしくね」
「漫才やってる暇はないんですから、教授も一緒にやるんですよ」
「もー、寂しがり屋さんだなー。行けばいいんでしょ、行けば」