ENo.0013　焦がれる残火の魔王『フィリリ』

「ねーねーまほ太郎～。」

「（既視感があるな…）なんですか？」

「まほ太郎、ぼくのこと調べたって言ってたじゃない？
　いったいどうやって調べたの？
　ぼくはそう大きな活躍をしてたわけでもないし、
　昔のことは人に話したこともないはずだけど……。」

「──昔の貴方に、僕のご先祖が雇われてたんですよ。
　かなり筆まめな人だったようで、色々と記録してあったんです。
　さすがに劣化が激しくて、わからないことも多かったですがね。」

「えっ先祖！？
　誰だろう、あの頃ぼくのところで働いてくれてたっていうと……
　咲子ちゃんに花子ちゃんに──」

「姫子です。本名は違いましたが。」

「そう、姫子ちゃん！懐かしいな～っ！
　エッまほ太郎って姫子ちゃんの子孫──へえーっ！えっ、そうだったんだあ～！」

「うち、プリンセスとプリンスの家系で。
　僕も本当はプリンスとして生きるはずだったんですよ。
　ただ僕、そういうの柄じゃなくって。
　頭の固い両親とずっとそりが合わなかったんです。
　そんな時、ご先祖──姫子のつけていた日記を見つけまして……」

「……。」

「彼女も悩んで、戦っていました。
　求められるプリンセス像に添いたくないからと、
　うちでは庶民の物として蔑まれていた算盤をわざわざ習ったり。
　貴方の所で働くようになったのも、家に対する反抗だったようです。

　ですが、魔王フィリリはプリンセス然とした振る舞いなんてちっとも求めなかったと。
　経理を任せ、“姫子”を信頼してくれたと。
　そう、書いてありました。」

「姫子ちゃん、そんなこと思ってたんだ……。
　だから、きみも？」

「はぁ……。調子に乗りそうなので、言いたくなかったんですが。
　そうです。僕は貴方に期待して、この城へ来た。」

「で、どう？ぼくは。きみの望むような魔王だった？」

「……ふんっ、まあまあってところですね！
　信頼されているのか、ただあれこれ押しつけられているのか不明ですし。
　あと名付けのセンスがゼロなのも嫌です。」

「なんだよ～！失礼だなあ、もう！
　ふふ。きみは、期待以上だったよ。
　有能だし、なんだかんだいって忠実だし。それに可愛い。」

「なっなんですか急に、気持ち悪い。」

「辛辣だなあ！　あは、変な意味じゃないよ？ぼく子ども好きだからさぁ。
　子どもを見てると幸せな気持ちになるんだよ。」

「子ども好き？貴方が？」

「ほんとだって。そんな怪訝そうにしなくても！
　特に赤ちゃんは好きだよ。
　世話も、じょうずなんだからね。」

「赤ん坊の世話？貴方には子どもがいませんよね？」

「ああ。
　──ああ。そうだね、ぼくの子どもじゃない。
　だけど、どの子もちゃあんと育てたさ。」

「……？？
　それって親のない子たちを引き取って養ったことがある、ってことですか？」

「あはは！
　そうじゃないんだけどね。うふ。まあ似たようなものかな。」

「それで、ですか？
　父と呼んでいいなんて僕に言ったのは。」

「あれは……。ただの冗談だよ。きみには両親がいる。
　それに育てた子ども達のことだって、ぼくは自分の子のように思ったことなんて一度もない。」

「── 子どもが好きだと言ったくせに、そんな顔をするんですね。」

「そんな顔って？」

「なんだか……。ひどい顔ですよ。
　というか、あれ？顔色が悪いんじゃありませんか。大丈夫ですか？」

「ん。もしかしたらお腹がすいてるせいかな…、なんだかすごく、お腹が…。
　ジャムトースト、つくってきてくれる？」

「はい。貴方の特製ジャムで、ですよね。すぐ持ってきます。」


・・・・・


「“とうさん”なんて……。呼ばれたくなかったとも。」

灰の溜まり場。あたたかい。