ENo.0080　花と羽毛と群棲の魔王

視線が集まったその先、恥ずかしそうに泳ぐ眼差しがあった。
褐色の肌に黒い髪。何より特徴的な、髪と同じ色の羽根に包まれた腕。
亜人の女性はおずおずと前に出てきた。

「は、初めまして……ミニちゃん達から、話は聞いてます……」

「貴方は……？」

「あ、ええと……私は、ラトナ」

「じゃあ、貴方が！」

亜人の女性――ラトナ――はこくんと小さく頷いた。
魔王であるミニもふ達は、元を辿ればラウと同じ立場であった。つまり、魔王から生み出された使い魔である。
ミニもふ達の生みの親であり、経済が生まれる以前より勇者と戦ってきた魔王、それがラトナだった。
ラウは話だけで知っていたラトナが目の前に居る事実に、思わず声を弾ませた。

「私が、魔王だった時の世界みたいに、なったと聞いて……ミニちゃん達と来たの。貴方を迎えに」

「私を？」

「きゅっ」

そう。

「ミニちゃん達のお姉さん、なら……私にとって妹、だから」

ぶわっと、心にも花が咲いたかのような、そのような感覚がラウに走った。
ラウは物心がついた時からここに居た。親も兄弟もなく、独りで居る事が普通だった。
あてもなく彷徨っていたところ、魔王になりたてだったミニもふ達と出会った。
そんな己を妹と言ってくれた。ラウは確かに心が暖かくなっていくのを感じていた。
同時に気が引き締まる思いだった。
変異の力に飲まれ、「影」に成れ果てぬようにと。
万が一、成ってしまったとしても被害は最小限、己だけに留めようと。
心優しい姉弟達に悟られぬよう、心に決めた。