ENo.0040　文字盤に絡む触手

差出人を偽ったらしい手紙から微かに感じた魔力の色と香り。
あたたかく、暖炉の火に似た、凍える人を救う炎の橙色と……焚き木の香り。そして勘違いかもしれないけれど、皆で囲む食卓から立ち上るふんわりした匂いがした、気がする。
その炎が火炎となり燃え上がった時、熱は人を傷つけるものに変わる。その境界線が……とても興味深いところに有った。
『その目に宿せし力』の暴走。
わたしにはそれを止められるだろうか。止めたい、と願う。そしてその境界線を、少しでも、彼が苦しまぬ方へと……、導ければ。おこがましい話だけれど……

しかし、あの部屋に満ちていたのは……あの『城』の主人である、魔王の魔力だった。耳と頭の風切り羽から感じるのは、間違いない、冷気に似た何かだ。
わたしの羽たちは魔力そのものと言える。だから、その場に満ちる魔力を、精度はともかくとして、探ることができる。『もしも術者が徹底的に隠匿しているならば、一欠片も感じることはできない』けれど……あの瞬間のあの部屋では、探ることを許された、ようだ。

そして……。わたしが手紙のインクから見出したあの温度は、魔術師の心の芯からにじみ出ていた。
この子は。そして、この魔王城の主人は。

魔力が人格に直結しているケースは珍しくない。かといって、あの『老いた猫』と称しても問題ない(実際『老猫』の名でランキングに名を連ねていた)あの魔王を、血も涙もないカルマに完全に染まった魔王だとも思わない。何しろ、従者にわたし宛の手紙を書かせたくらいなのだから。
それでも、凍るような魔力に触れたら、さすがに体を悪寒が走る。一瞬とはいえ、羽毛が膨らんでしまった。
どうやらあの魔王は……本来の意味の『魔法』の使い手としては、わたし以上の力を持っているのだろう。『ウィッチ』と呼んでも差し支えなさそうだが……まあ、それは置いておこう。

不思議な城だ。冷気と暖の入り混じる部屋。星のような魔力の残る天井。わたしの城にはない景色がたくさん、たくさんある。

2人に挨拶ができただけではなく、あの城はわたしに有意義なものをいくつもくれた。この世界が滅びを迎えたとして……少しでも望みがあるのなら、もう一度だけで構わないから、あの不思議な部屋を見渡したい。
願わくば、そこに2人の姿があらんことを。


(店主)

〜すべては熱意から始まる〜

〜せっかくなので警戒も欲しい〜