ENo.0061　『アンナロッテ』

「リリーが、勇者？」
　わたしから見ても、リリーは勇者らしくない。けんかっ早くて口が悪いところなんかはカルマ墜ちした勇者らしいかもしれない。でもリリーはそんなふうには見えなかった。
「「ええ、まあ、そのようです」」
　ワダツミは眼を細めてリリーを斜めに見上げる。リリーも、腕組みのままじろりとワダツミを見下ろした。
「これまでと変わらないっちゃ変わらない。魔王であるあなた、『アンナロッテ』はこの四畳半の空間――魔王領域の中でなんでも思いのままにできる」
「ええ、うん」
　リリーはわたしを見ない。
「そうして、魔王城の最奥であるここまで、魔王城を制圧して攻略してくるのが勇者。これもこれまでと変わらない」
　基本ルールは、わたしたちがこれまで魔王として焼き菓子屋さんをしていたときと変わらない。だけど前よりずっと、それぞれが持つ城がはっきりしたみたいだ。
「名も無き勇者から、名を持つ勇者になったってことが変更点。あたしは誰かの城を攻略しに行く。そして、その城を攻略して魔王を殺すかもしれないし、失敗して殺されるかもしれない。同じように、『アンナロッテ』、あなたのこの城も、名をもつ勇者の誰かに攻略されるかもしれない」
　まあ、やってみればわかるでしょ。リリーはこともなげに言った。
「ものは試し。あたしがここを攻略してみるから、防いでみせなさい」