ENo.0312　ブルートシュタイン・ブラッディドラゴン

それはある日、勇者や他の魔王との商戦を終えた後のことである。

「んー、魔王商売もなかなかええもんやけど、たまには竜術師相手に商売してみたいもんやなあ。」

「何を言うか。そんなもの、元の世界に帰ればいくらでもできよう？」

「ちゃうちゃう。もし…もしもの話や。」

「ほう？」

「竜術師の人たちが、勇者として来店したとしてな。みんなわいらの手のひらの上で面白おかしく踊らされるところを、あんたは見たくないんか？　もしかしたらその…あれな、アポロンっつー竜術師も、ブルートはんの城に来るかもしれんし…。いや、あくまで“もしも”のことやで？」

我輩はここで口をつぐんだ。風の竜の言葉に思うところがあったせいだ。

「アーリアよ。金で人の心、ひいては世界を動かす。竜としての在り方として正しいと思うか？」

「なんや、藪から棒に。」

「100年前のことだ。我輩が竜と化した当初は『この力を以ってして同族を支配しよう』と考え、そして失敗したのだ。ここに来てから今は、金で同じ事が出来ないかと思い始めておってな。商売など、人間でもできること。竜術師がやるのは、どうかとな。」

「当然や！！　てか、わいの目の前でそんなこと考えとったん？　ウケるわ～。」

アーリアめ、手を叩きながらへらへら笑いおった。

「貴様、何がおかしい！」

「いやいや、何も可笑しいところはあらへん。竜だって、商売はできる。ブルートはんは実際そういう才能、めっちゃあるで。せやから、会社のひとつ、立ててみたらどうや。まあウチは行商人、帰ったら一緒にやってくってのはムリやけど。」

「…そうか。」

我輩はそう言うと、在庫を運んで回るアーリアの背中を見届けた。