ENo.0012　人喰いの嬰児 ヒンガン

　勇者が地に伏せるのを見て、安堵の息を吐く。伸びをして、丁度血抜きが終わる頃であろう“それ”を見た。

　リボンを脚に巻かれ宙吊りになったそれに近付き、肉が固くなる前に処理を続けなければならない。
　特に消化管は早く取り除きたい。

　今後の作業に反射的に暴れてしまわぬよう、後頭と首の境目から首にめがけて斧にも似たリボンが振り落とされる。
　裂いた喉から管を見つけて切り、結ぶ。そのまま消化管を取り除く処理をし、その行程の中で皮も剥ぐ。

　太い骨を取り除き洗ってしまえば、それは同じ人であっても食べるものとしての物にしか見えないだろう。
　私はそれを満足げに見て、この前作製した全自動焼肉機械を呼ぼうとした。

　が、砂時計はそろそろ落ちきる頃であった。
　次の勇者が来てしまう。呼ぶのは止めてまた配置図とにらめっこしようと椅子に座った。

　リボンが視せた勇者にあっと呟く。
　黄金の刀身だ。

　初めて来た時を思い出す。殺意を向けられ、ただ震えるだけだったあの時を。

　今も奥歯はカチカチと音を鳴らし、全身の震えが止まらない。

　私は人間である。それは間違いない。
　リボンを伝って視た、怪奇な姿で他人を恐れ戦かせることは出来ない。

　この黄金の刀身の持ち主は、少なくともたった一人を恐怖に陥れるだけの力があった。

　だが、私もただでは折れない。
　それは“魔王”として能力を自覚し、対抗する方法を学んできたのだ。
　徐々に落ち着いてくる。押さえなければ震えてしまうが、それでも今はいい。

総員、配置につけ！
礼儀も知らぬ獣に、貴様自身が手土産であることを示してやれ！