ENo.0116　きらら

「セイトー。どこ？出かけるんだけど」
「足元です。外は勇者たちが跋扈し危険です。それとわたくしは左藤です」
　きららは開け石でできた桐箪笥を開けた。
「生き物を見に行きたい」
　よそ行き用の岩石服が畳んで入れてある。
「この土地の生き物は水と、あと何だか軟らかいものでできているんでしょう」
　セイトーの頭に水滴が落ちた。天井の鍾乳石から滴った水だ。
「そういうことは学者に任せておけばいいのです。ヤクザの親分がすることではありませんよ」
　8メートルの体を折り曲げてきららは着替える。膝の高さからヤクザゴーレムの若頭が見上げている。
「組長は蛋白質生物の素早さをご存じない」
　かかとが畳を揺るがす。
「目に見えない速さ、というのが比喩ではなく本当なのですよ」
　石でできたポシェットを袈裟懸けにする。ちょっとしゃがんで、と言い吊り紐で捻れた襟を直した。
「それなら動体視力の鍛錬になる」
　しゃがんだまま、石臼のような目がセイトーを追う。服のシワを伸ばし、ぽっかりと開くポケットをセイトーは覗き込む。
「単に速いだけではありません。蛋白質生物はわたくしたちにとって幽霊のようなもの、居ても見えないことすらあるのです」
「ますます会いたくなってきた」
　嘆かわしそうなため息がポケットに反響した。
「今は組の存続にとって——」
「大丈夫」
　きららはセイトーをすくい上げてポシェットに押し込んだ。
「コバルト組の義理かけまでには戻るから」
「まったく」
　石でできたフスマが開く。部屋が震え、ざっと水滴が降る。差し込んだ光に虹が生える。

究極の漬物を求める団体