ENo.0016　Anny=Tolle

仕事の後部屋に戻るとすぐベッドに倒れ込む。
装置に入らないで休むのはまだ慣れないけどふかふかのベッドは嫌いじゃない。

「はぁ……」

前の仕事では仲良くやれた姉の傷ついた顔が不意に頭を過った。
酷い言い方をしたとは思うけど後悔はしてない。あれは本心だ。今だって叫び出したいし暴れたいくらい気持ち悪い。そうしないのは俺が自分で体を傷つけられないように主様が処置をしてくださったからだ。

恨み言をぶち撒けたいのに考えた悪口は言葉になる前に頭の中から消えて褒め言葉ばっかりが頭の中を埋め尽くす。
気持ち悪い。なんで姉の頼みなんて聞いたんだ。主様の判断だけで処置してくださればこんなことにはならなかったのに！


「大丈夫――では、なさそうだな」

いつの間にか廊下に続くドアが開いていて、起き上がると照明が差し込んでいて思わず目を細めた。

「主、様……」

頷いてから主様が近づいてきて、俺の隣に座る。

「すまない、トトア。お前には辛い思いをさせている」
「と、とんでもないッス。主様に処置していただいてすごく調子が」

マスク越しに俺の口を塞ぐみたいに、主様の手が俺の口元を覆う。

「言うな。お前が処置により言わされていることはわかっている。だから何も言わなくていい」
「……はい、ッス」

主様の言葉は絶対だ。逆らえない。
手が離れてすぐ返事をしたら暗がりで光る主様の目が細められた。

「ペルレイシスを抑えるにはこうするしかなかった。私に不可能はないのだと本気で思っているから、説得できなかったんだ。…私が不甲斐ないばかりに、本当にすまない」

何も言うなと言われてしまったから、必死に首を振るしか俺にはできない。
主様が悪いなんてありえない。主様は間違えない。周りが間違いだって言っても主様がすることはなんだって正しい。

「…ただ、謝罪に来たわけではない。今機材の調整を進めている。この仕事が終わるかその少し前に終わる予定だ。調整が終わればすぐにでもお前を治療しよう」

どこも悪くないのに治療なんてしてくださらなくても。

「マジッスか？」
「ああ、マジだ」

勝手に頭の中に流れる言葉を無視して口から言葉が飛び出した。俺の言葉づかいに合わせて頷いてくれた主様が、ふふ、って小さく笑った。

「こういった言葉は私には似合わんな。……さて、長居をしてペルレイシスに嗅ぎつけられても困るから、もう戻る」
「え、あ、はいッス。お見送りするッス」

頼む、と主様が言ってくれた。
主様が立ち上がるのに合わせて俺も立って、ゆっくり歩く主様の後ろに続く。

やっぱり主様は、優しい方だ。

ペルレイシスとトトアを生み出した本来参戦すべき魔王の根城。

領域には丁寧に整えられた色とりどりの薔薇園とその中央に鎮座する巨大な蔓薔薇の蕾。
本来は真っ白だっただろう城壁には蔦がびっしりと張り巡らされて深緑に染まっている。


生物の気配が感じられず、静まり返っている。



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「やはり、そうなるか」