ENo.0204　ルーゼンエッタ

　その日は 、どうしても食欲が出なかった。
　グラートの作ってくれる食事はいつも通り美味しかったし、ふわふわのチーズオムレツはルーゼンエッタの好物の一つだ。
　なのに、どうしても食欲がわかない。
「…………」
　食べなければならない。強迫観念にも似た思いからオムレツを突っつくが、どうしても食べる気にならなかった。
「おい、ルゼ。オムレツいらないなら貰うぜ？」
　小さな妖精サイズのウォルナードに言われて、は、と慌てて顔を上げる。
「ううん、大丈夫よ。ちゃんと食べれるわ」
そう言ってノロノロとオムレツを口に運ぶ。とろけたチーズと、ふわふわの食感はいつも通り。美味しい。文句なしに美味しい。
「…………」
　なのに、どうしても食べる気が起こらない。
「大丈夫ですか、ルゼさん」
　問いかける言葉に頷いてもう一口、と思うがフォークは止まったままだ。
　食べなければならない。
　食事はちゃんと取らなければならない。
　出されたものをきっちりと食べなければ。
　そうしないとーー。
「ルゼさん、残していいんですよ。ここは組織じゃないんですから」
　自分のフォークを置いて、グラートが真っ直ぐにルゼを見つめてくる。
「誰もあなたを廃棄する人はいません。検査する人も」
「どういうこと？」
　疑問符を浮かべているウォルナードのにグラートは困ったように笑って、チラリとルーゼンエッタを見ながら口を開く。
「ルゼさんと僕が強化人間なのは話したと思いますが。色々な調整、薬物や施術の関係で耐久年数が短いんです。身体の劣化が早いというか……。それで、耐久限界が近づくとまず“食欲がなくなる”ことから身体症状に現れると言われています。だから、食欲がなくなる、と言うのは僕らにとって一種の恐怖なんですよ。組織にいる内は食事の摂取が一定量に満たないと検査に回されて、限界が近いとなると廃棄に回される」
「…………」
「勿論、ただの食欲不振の時だってある。それでも、僕らにはそれは死と隣り合わせだったんですよ。売られてしまった僕より、ルゼさんの方がそれが強いのは当たり前です」
　そうだ、そうなのだ。
　そうやって、食欲不振を訴えて、検査にまわされいつのまにか消えていった“子供たち”を何人も見た。
　ルーゼンエッタはまだ耐久年数まで余裕はある。だが、組織の調整を全く受けていない現状それが短くなっている可能性は捨てきれない。
　だから、食事が取れないのは恐怖だ。食べれなければ、廃棄されるーーいや、廃棄されることがなくても死が近いには変わりない。
「ご飯が食べれないなんて、よくあることですよ。気にすることじゃない。だから、残していいんです」
　そう言ってグラートは真っ直ぐにルーゼンエッタを見つめてくる。
　そう、解っている。解っているけれどーーどうしても心に理解が追いつかない。
「そうね。そうよね。ごめんなさい、今日は食欲がないの。悪いけれど残させて貰うわ」
　4分の1も食べていないオムレツを眺めつつ、そう言うことが酷く勇気がいることである事実を突きつけられて、ルーゼンエッタは唇を噛んだ。
　組織から逃れて、自由になった。
　それでも今もまだ、自分の一部は組織に囚われたままなのだ。

　ダンジョンのどこか、ちょっとしたスペース。
　少し大きなテーブルに、座り心地の良さそうな椅子、明るい色の花が一輪、花瓶に挿してある。
　そこでくすんだ金髪の少女と同じ髪色の少年が、何やら準備をしているようだ。
　あなたに二人が気づくと、少女の方が笑顔で話しかけてきた。
　どうやら歓迎しているようである。

「いらっしゃい。
　ここはダンジョンの奥でお店を開いている魔王やその関係者たちのための、お茶会スペースよ。
　ホストは私、ルーゼンエッタとグラート。そこにいるちっちゃい妖精みたいなおじ様はあんまり気にしないで頂戴ね。
　私達がいない時も暖かい紅茶とお茶菓子は用意してあるから、気軽に休んでくれると嬉しいわ。
　私的なお茶会だから、作法的なことは何も気にすることはないけれど、殴り合いの喧嘩やあまりに口汚い言葉は歓迎しないの、ごめんなさいね。
　皆で仲良くお茶をしましょう？

　でね、今日のお茶とお菓子なんだけれど――」



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【PL向け情報】
四城半のダンジョンの何処かにある魔王たちのお茶会スペース設定のユニオンです。
なんとなくロール色濃い目のユニオンですが、交流及びロールの有無は問いません。
ユニオン参加者以外でもお茶会スペースは利用可能ですので、ロール等々での利用もお気軽にどうぞ。

・笑顔を上げたい方（笑顔極振りユニオンです）
・お茶が好きな方。
・お菓子が好きな方。
・ロールのネタにしたい方。
・交流のネタにしたい方。
・なんかよくわからないけど気になった方。

そんな感じの方を募集します。
ユニオン主はEno.204　ルーゼンエッタ　です。
お茶会に参加したい方、お問い合わせ等はお気軽にでどうぞ。

それでは、ご縁がありますように。