ENo.0163　《不殺の魔王》と《神殺し》

無事にアンデライト救国作戦を乗り越えて、今。
シュニーフィカは随分と空きスペースだらけになった倉庫を見渡して、軽く片手を動かした。
手元に半透明のディスプレイが展開し、現在自分たちの城に残っている商品や、まだ使える建築物の情報がそこに表示される。
救国作戦を乗り越えてからの城の状態を確認すると、シュニーフィカは小さく息をついた。

「それなりに物資支援はできたと思う、けれど……その反動で、ほとんど何もないなぁ……」

この世界で魔王として君臨し、商品とお金を動かす存在になってから、もっとも多くの商品が売れた。
飛ぶように商品が売れるのは、見ていて気持ちがいいものがあったが――商品の再入荷と再陳列には少々大変な思いをすることになりそうだ。
そっと手元のディスプレイを消すと、ぐぐーっと軽く身体を伸ばしてから、倉庫の出入り口へと足を向ける。
そのまま廊下へ出て、ダンジョンのほうへ向かっていくと、点検をしているらしい燕の背中が視界に映った。

「燕さん」
「ん、どうしたんだい？　魔王様」

声をかけると、燕は目をぱちくりとさせ、ゆるりとした動きで振り返る。
穏やかな赤い瞳の中には、相変わらず三日月が揺れていて――それが、ひどく美しく見えた。
はじめて出会ったときからずっと思っているが、夜宮燕はどこか人間離れしたような雰囲気の持ち主だ。
見た目は限りなく人間に近いのに、その根っこの部分は人間とはまた違う何かのように見えてしまって――。

そこまで考えて、気付いた。
ああ――燕も、自分と同じように人間から離れてしまった何かなのかもしれない、と。
本人が望んで選んだ道なのか、望んでいないのに選ぶしかなかった道なのか、どちらなのかはわからないけれど。

一人で目を見開いて、けれどすぐにまたいつものように笑って、シュニーフィカは口を開く。

「……少し、商品の仕入れを手伝ってくれませんか？　今日は、いっぱい仕入れなきゃいけないから」
「ああ、救国作戦のときはすごい勢いで商品が消えていったからね。わかった、お付き合いするよ。僕の魔王様」

少し考えるような仕草をしてから頷いてくれた燕へ、シュニーフィカはふわりと笑みを向ける。
きっとまた自分は一人きりになってしまう、燕もシュニーフィカの手が届かないどこか遠くへ行ってしまう。
今は指を絡められるくらいに近くにいてくれるけれど、この温もりもいつかは消えていってしまう。
だから、今から覚悟をしておかないといけない――でも、そんなわかりきっている未来から、今だけは目をそらして笑っていたかった。

――それは、《不殺の魔王》が座していた場所。
仮想と電子の隙間、誰にも立ち入られぬはずだった孤独の籠。
迷い込んだ者を引き込み、王とする、美しくも残酷なる水晶の牢獄。

淡く七色に輝く水晶が散りばめられたその場所を模した空間は、死を好まぬ魔王と常に共にある。

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◇ 魅力と笑顔でなんやかんやしたいユニオン。
◆ そのときの気分で魅力と笑顔をあげていきたい。