ENo.0073　王国軍とりで

記録係の青年は今日もあちらこちらを見回っていた。
ふと彼の目に留まったのは投石器の整備をする兵たちの姿だった。

王国軍は自動人形兵という技術を持ちつつもそれに軍資金の大半を食われており
こういったやや時代に遅れた形式の兵器を使うことも多かった。
固定式ガトリング砲なんかはそれぞれとりでの反対ずつに取り付けてある程度で他はもともとこのとりでにあった使い古されたバリスタや大砲程度。
よくよく見ると彼らはそれらほぼすべての整備をやたらと念入り過ぎるほどに行っていた。

アンディにとってはどうでもよいことだ。
これがこの軍という集団組織や自らに致命的な損害を与えることでもあるまい。
そう判断した彼は人に見つからないであろう物陰に隠れ、あろうことかのんきに昼寝を始めた。
ぐうたらしていられるのも戦いのない今のうちだ。
軍長に再び見つかろうものなら彼の役目はそれこそ自動人形にとって変えられることだろうが
見つからなければどうってこともない、ほかの兵たちと同じように。

ただ、昨日の小さな人形師の眼だけが彼の眠りの妨げだった。
彼の代わりを作るのはきっとその人形師なのだろう。
彼の脳をうろつくのはやわらかい毛におおわれた羊でもなく
ちくちくとした毛の生えた気色悪い蟲だけだった。


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とりででは先に控える大規模勇者駆逐作戦がため
刻々と準備が進められていた。
この日は自動人形の動作テストが行われる。
ぞろぞろと自動人形たちがとりでの外へと出てくる。
とりでに幽閉された人形師が休むことなく作ったそれは
ここに持ち込んだときから比べ物にならない数になっていた。
減った雑兵の数などどうでもよくなるほどに。

人形たちは機械的な声で点呼をとる。

――おかしい。

誰もそうはおもわなかった。　記録係を除いて。
すぐにでも声を上げれば伝わる距離に軍長はいる。
無論軍長その人も気づいてはいなかったが
結局その違和感は声に出されることはなかった。

記録係は昨日兵たちが細工をしていた投石器やらを見上げた。
それは変わらず兵と人形を見下ろすだけだった。
ただ、彼はこの場を抜け出さねばという気持ちに駆られた。
適当ない言い訳を軍長につけようものなら、記録係失格とされ即廃棄処分されるに違いはない。
だとすれば隙を見て抜け出す他なかった。

彼は好機を伺った。
エーベルハイトの鋭い意識から自らが完全に外れるその瞬間を。

笑う門には福来る　即ち勝者たるもの高らかに笑え