ENo.0092　エン・レイ

【７ページ目：迷い人を拾いました。】

　大変です。
　先日の日記にも大変だと書いた気がしますが、更に一大事です。

　記憶喪失の女性を見つけてしまいました。

　朝の散歩をしていたら、カフェの壮大な外壁に、埋もれるようにして座り込んでいたので、すぐには見つけられず、気づいた瞬間に思わず大きな悲鳴をあげてしまいました。
　それを聞いたあの人が剣を抜きかけながら飛んできましたが、私達に害をなそうという気は無いようだったので、とりあえず店内に招き入れて、温かいコーヒーとスコーンを出してあげました。

　女性が落ち着いてからよくよく話を聞きました。
　お名前は、ユリア・クールハートさんというそうです。
　私達の暮らしていた大陸では、苗字という二つ目の名前を持っていても、自己紹介の時に名乗るのは、あの人の故郷であるイシャナ王国の中でも、相当偉い人だけだったので、ユリアさんは、私達とは別の世界からやってきた方のようです。
　誰かと一緒に暮らしていた事、その誰かと一緒に「何か」を成した事は覚えているそうですが、その「誰か」が誰なのか、全く思い出せず、ご自分がどこから来たか、どんな事をして暮らしていたのかもわからないとか。
　ただ、インシオンが一目見ただけで、「俺と同類だ」と言った事と、私達の世界では古い設計図だけが王家の書庫に保存されていて、製法が確立されていなかった『銃』を携帯していた事から、彼女もまた、戦いのある世界から来たのでしょう。

　とにかく、記憶喪失では行くあてもありません。
　なので私は、ユリアさんに提案しました。
「では、記憶が戻るまで、うちに住み込みで働いてくれませんか」

「……おい。得体の知れない奴を置く気か？　記憶喪失の態をして、寝首をかきに来た暗殺者だったらどうするんだ」
「彼の言う通りだ」
「私が刺客だったら、油断しきっている貴女にこの銃を撃ち込む事は容易いぞ」
「！」
「インシオン、剣を引っ込めてください」
「だが、お前……」
「たしかにユリアさんのおっしゃる通りですが、私が知る限り、ご丁寧に暗殺を宣言する刺客なんていません」
「だから、私はユリアさんを信じようと思います」
「疑う事が何も成さない事は、貴方だってよく知っているでしょう？」
「……ほんっと、お前はお人よしだな」
「それが取り柄ですから」
「褒めてねえってんだよ」
「……はは。面白い人だな、貴女は」
「信じてくれた礼だ、店を手伝おう。記憶が戻るまでだが」
「それでもかまいません。よろしくお願いいたします」
「ほら、インシオンも」
「……あー……」
「エレに何かあったら、即刻排除するからな」
「……ああ」
「覚悟しておこう」

『資料室』と書かれたドア看板の下に、『飲食厳禁　飲食はフードコートで』とか、『資料の外部持ち出し厳禁（館内は許可）』とか、そんなことが書いてある。
ここは水族館の資料室だ。あなたはここで様々な海の生き物の生態が書かれた本や、あるいは水族館職員のつけた記録を読むことが出来る。
――そして、この水族館には存在しないはずの、『人魚』という存在について、非常によく知ることが出来るだろう。

*知識全振りユニオン*
*ユニオン購入は独断脳死予定*
*細かいことは以下のURL*

http://midnight.raindrop.jp/trieste/union.html