ENo.0160　Anny=Tolle

　店舗の隅にうず高くつまれた商品を女が軽々と運んでいる。
筋力の無さそうな外見に反してかなり力があるらしく箱を何段も重ねた物を両肩に担いでも涼しい顔だ。

「えーと…これは、こっちで……いや、こっちでしたか？」

　反面おつむの方は弱いようで陳列予定の場所で迷ったりしていた。

「ね…兄さん、それはこっちッス。分かりやすいように並べ直すんだって言ったの兄さんじゃないッスか」
「…………んなこと覚えてますよ。ただ少しど忘れしちまっただけです」

　男の指摘が気に入らなかったのか不機嫌さを隠しもせず顔を顰め、荒い足取りで言われた場所に商品を運ぶ。
　明るい声音で声をかけた男は女の態度を見て体を縮こまらせ俯いた。

「……兄さん。俺の指摘って迷惑ッスか」
「は？」

　運んでいた物を下ろしたところで声をかけられ、女は男を振り返り首を傾げる。
　普段であればキツい言葉でもぶつけていただろう。だが男が明らかに悄気ている様子を見て開きかけた口を閉じ、考え込むように視線を彷徨わせて尻尾を揺らす。

「気に入らないだけで迷惑とは思っていません。…気に入りませんが！」

　重要なのか繰り返し強調し、フンッと鼻を鳴らす。
　やはりキツい言い方なのだが男にとって悪い言葉ではなかったようで、そうッスかと明るさの戻った声で返すと商品の詰まった箱を二つ程重ねて持ち上げ、女に倣って運ぶ。

「お前、もう少し運べないんですか」
「無理言わないでくださいッス。俺はね…兄さんと違って非力なんッスから」

　棚に商品を下ろした男の顔に尻尾をもふもふと当てながらそれもそうですね、と納得したように頷く。

「さて、あと少しですし運んでしまいますよ。んでおやつタイムです」
「はいはい、了解ッスよ」

　数回往復して運び終えると女は小走りで、男はゆっくりとした足取りで奥へと消えていった。



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「そういえば食物沢山持ってく予定だったのに少なくないッスか？」

「一気に仕入れたとして、売り切れると思いますか？」

「……思わないッス」

「つまりはそういうことです」

「……ッス」

ペルレイシスとトトアを生み出した本来参戦すべき魔王の根城。

領域には丁寧に整えられた色とりどりの薔薇園とその中央に鎮座する巨大な蔓薔薇の蕾。
本来は真っ白だっただろう城壁には蔦がびっしりと張り巡らされて深緑に染まっている。

魔王が出てくることはほぼなく、城のどこかにあるプライベートルームに引きこもっているようだ。