ENo.0160　Anny=Tolle

　「ね――兄さん、あの…なんとかの民とかいうやつの支援、何持っていくつもりッスか？」

　男が在庫管理の表を作成しながらソファーで己の尻尾を抱えてうとうとする女に声をかけた。

「うーん…？そうですね…食物でいいんじゃないんですか、食物で。あって困る物ではないでしょう、あれは」

　特に文句も意見もないのか、男はそうッスねと返し別の紙へとペンを走らせる。

「次回のことは良いとして、今回の開店準備はできてるんでしょうね？」
「そりゃぁまぁ…兄さんと相談した通りに発注しておいたんで、後は物が届くのを待つだけッス」

　それならいいです、と女は大きな欠伸をしてふわふわと自身の顔を撫でる尻尾に顔を埋める。どうやら完全に寝るつもりらしくそのまま動かない。

「ね…兄さん、寝るんなら寝室行って寝てくださいって。いくら俺よりも丈夫に作られてても、部屋暖かくないンスから風邪引くッスよ」
「チッ…煩ぇ奴ですね、お前は」

　まどろむ心地良さに水を差された女は不機嫌さを隠そうともせず男を睨む。
　すんませんッス…と男がしょんぼりと肩を落として謝るとフンッと鼻を鳴らして立ち上がり、荒い足取りで部屋を出ていった。機嫌を損ねはしたが素直に寝室に向かったのだろう。

「……余計な世話だったンスかね…」

　男は悄気た様子で呟くとため息のような音を漏らし、数度緩く首を振ると書き物に再び手を付けた。

ペルレイシスとトトアを生み出した本来参戦すべき魔王の根城。

領域には丁寧に整えられた色とりどりの薔薇園とその中央に鎮座する巨大な蔓薔薇の蕾。
本来は真っ白だっただろう城壁には蔦がびっしりと張り巡らされて深緑に染まっている。

魔王が出てくることはほぼなく、城のどこかにあるプライベートルームに引きこもっているようだ。