ENo.0160　Anny=Tolle

　男女が男女がテーブルを挟み、椅子に座っている。
　今回は男が余裕を感じさせる様子でマグカップのコーヒーの香りを楽しんでおり、女はこの世の終わりを見たと言われれば思わず信じてしまうほど目は淀み机に突っ伏し小声でブツブツと自身の不出来を嘆いていた。

「主様…申し訳ありません…。アニー＝トルだというのにお役に立てないどころかこんな…こんな…」

　耳がへたりと寝て尾も力を失い心なしか毛艶の悪い女の方へ顔を向け、男は首を傾げる。

「姉さん、そんなに落ち込まなくてもいいじゃないッスか。今回稼げなかったのが問題ならすぐにでも主様から連絡来そうなモンなのに来ないんでしょ？」

　だから大丈夫ッスよ～、などと気の抜けた声で男が言うと、女は少し顔を上げてじとりと睨む。

「主様がお怒りじゃぁなくても、俺が俺の失敗を許せねぇんですよ。あと兄と呼べと言ってるでしょう、いい加減覚えねぇともぎますよ」
「何を！？」

　女はようやくテーブルとお友達になっていた体を起こした。

「呼び方一つ記憶できねぇその頭をですが？」

　重い空気の沈黙。
　男はそっとマグカップをテーブルに置くと、咳払いのような音を立ててからまた喋りだす。

「えーとー……兄さん、とりあえず落ち込んでないで次の予定決めないッスか」
「……そうですね。落ち込んでいても失敗は取り返せませんし、切り替えますか。…阿呆のくせにたまには良いことを言いやがりますねお前」

　まだ暗い表情をしているが一応は切り替えた女を見て安心したように男は肩の力を抜く。

「阿呆はやめて欲しいって言ってるじゃないッスか…」




　この後何を作るか何を仕入れるかで揉めてめちゃくちゃ喧嘩した。

ペルレイシスとトトアを生み出した本来参戦すべき魔王の根城。

領域には丁寧に整えられた色とりどりの薔薇園とその中央に鎮座する巨大な蔓薔薇の蕾。
本来は真っ白だっただろう城壁には蔦がびっしりと張り巡らされて深緑に染まっている。

魔王が出てくることはほぼなく、城のどこかにあるプライベートルームに引きこもっているようだ。