ENo.0010　アルニバルス

覚えが有る。既にして知っている。
最後まで、襲い来る勇者共の顔ぶれはかつてと同じくあった。
それに抗する此方の備えは随分と様変わりしたといえ。

帰する所、この争闘は以前の焼き直し、異なる装いで同じ舞を踊る、そうした螺旋の一巡りであったのではないか。
また斯様な騒ぎの何時起きるとも知れぬような。



では、吾は。
吾はこの、戯れにも似た神々の祭事、その繰り返しに際し、如何に振る舞うか。……否、振る舞わされるか。
吾が君、“巡りの母”は未だ黙し、この領の行く末も定まらぬ。

このままこの辺地の領を治める任を解かれず、肉親達と離されたる日々を送るのか。
或いは任を解かれ、また異なる地、異なる様にて仕えることとなるのか。
―――二度の戦乱を経て、直に感じられる程に大きくなりつつある吾の力を“母”が見出したならば。

しかし。
何れであろうとも、かの暴君に反旗を翻すに足りる情態ではないこと。それは十二分に判っている。
勇者を名乗る有象無象、あのような束にすら対するに覚束ぬとあらば。

なれば今暫く、爪と牙と角とを研ぎ、機を待つこととしよう。
余り有る吾等の時を過ごしながら。



差し当りては今の職分、勇者を討ち滅ぼす魔王の役処、それを果たしに行かねばなるまい。
天も地も、生有る者も無き者も、全てに遍く、吾が様を知らしめるべく。
吾の、吾等の此処に生きた軌跡を刻むべく。