ENo.0128　名も無き死者の王

《名も無き死者の王》は、
　ロンディーネに何かを期待したことがなかった。
　何かを求めたことがなかった。
　ただそこに在ることだけを望んだ。
　少なくとも言葉に表すことをしなかった。

　ロンディーネは己の王が求めるものを汲み取ろうとした。
　しかしそれは彼の中のイメージでしかなかった。

　ある日唐突に《名も無き死者の王》が口を開いた。




　――私はヒトを蘇らせるすべを知りたい。
　　　あるいは、命を創る方法を知りたい。
　　　ロンディーネ。きみはその実験台だ。


　ロンディーネは驚いた。
　ヒトを蘇らせることは、不可能だ。
　赤いリンゴを青いと言うようなもの。

　仮になんらかの手段で朽ちた肉体が再び命を取り戻したとき、
　それは朽ちる前の命と同一と呼べるだろうか？
　否。
　そこに連続性はない。
　死とは断絶。
　再び立ち上がったソレは、まったく変質した存在なのだ。



「では、僕はもともとはなんだったのですか」

真っ暗な空間。
死と生のあわいにある場所。猶予の領域とも呼ばれる。
生きた何かが来ると正気がグニョ～ンと引き伸ばされて
あたまがおかしくなってしぬ。
なんか死んでるか狂ってるかしている魔王なら大丈夫。

「頑張ってこの世界から生のシステムを取り除きましょうね」

周囲には誰もいない。