ENo.0163　《不殺の魔王》と《神殺し》

この世界に休暇としてやってきてから、第9週目。
シュニーフィカとの時間もかれこれ9週目を迎えたが、なかなか順調に進んでいるように感じる。
最初はお互いに手探りで、わからないことがありすぎて少々不安になることもあったが、なんだかんだで商品は売れているし、累積粗利益は少しずつだが伸びている。
メルサリアと名乗る科学者によると神の試練とやらが近づいているらしいが、この調子ならシュニーフィカも神の試練を乗り越えることができるのではないだろうか。
仕える主が大きな壁を乗り越えるのは、従者である燕にとって、大変喜ばしいことだ。

――自分は、ずっとシュニーフィカと一緒にいれるわけではないから、余計に。

少しずつだが、シュニーフィカはこちらに懐いてきてくれている。
部屋の隅で一人で震えるようなこともなくなってきたし、話しているときは不器用だが笑顔を見せるようにもなってきてくれている。
出会ってすぐの頃は、全て貼り付けたような表情だったのが、少しずつだがそうではなくなってきている。
ああ、そう考えると、自分は――。

『残酷なことをしてるよなァ』

聞き慣れた声が聞こえる。
周囲にシュニーフィカの姿がないことを確認してから、燕は小さく息を吐きだした。

「……そんなの、いまさらだろう？　狂禍。僕らはここに辿り着くまでの間、ひどいことをたくさんしてきている」
『ああそうだなァ。ッはは、あーんな何も知らなそうな顔した相手にも、お前は残酷になれる奴だもんなァ？』

くつくつと男の笑い声が脳内に響く。
唯一残っている片手で握り拳を作り、柄に向かって振り下ろすとその笑い声はぴたりと止んだ。

――狂禍災月。燕の相棒にして、自分に絡んでいる呪いの原因。
燕が死にたくても死ねない身体になった、全ての始まりの刀。
その呪いに触れた者にしか聞こえない声で語る彼は、数秒黙り込んだあと、大声を張り上げた。

『燕テッメェ！！　何しやがる！！』
「うるさいよ、狂禍。わかりきっていることを何度も繰り返さないでくれるかな」

小さく溜息をついて、燕はすっかり止まっていた手を動かして倉庫に残っている在庫を確認する。
自分が残酷な奴であることも、何も知らない相手にも残酷になれることも、燕はよくわかっている。
そうでないと、あの気が狂うような長い旅路を乗り越えられなかっただろう――どこまでも残酷な奴になるという選択をしたことを、後悔はしていない。
ただ、シュニーフィカには少し申し訳ないなと思うくらいで。

「……今更変わるつもりはないし、変えるつもりもないよ」

シュニーフィカからすると、とても残酷な奴になるけれど――それでもいい。それでいい。
最後にそう付け足して、夜宮燕は在庫チェックの続きを再開した。

――それは、《不殺の魔王》が座していた場所。
仮想と電子の隙間、誰にも立ち入られぬはずだった孤独の籠。
迷い込んだ者を引き込み、王とする、美しくも残酷なる水晶の牢獄。

淡く七色に輝く水晶が散りばめられたその場所を模した空間は、死を好まぬ魔王と常に共にある。

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◇ 魅力と笑顔でなんやかんやしたいユニオン。
◆ そのときの気分で魅力と笑顔をあげていきたい。