ENo.0250　ライナス・D・ダルトン

ギッ、と古い蝶番が鈍い音をたてる。
木製の扉は思っていたよりは軽く、しかし確かな重さを感じるように緩やかな動きで開いていった。

「……」

どうして今自分がここにいるのかはわからない。けれども、ただ呆然と立ち尽くしていても意味がない。一番近くにあったこの城に自然と足が動いた。広すぎる城に対して呼び鈴など無く、まずは無断で扉を開いて中にはいる。
まるで映画のセットか、テーマパークか。石造りの城はその見た目に対して中までもが、男の知る建物とは時代が違いすぎていた。

カツン。

明らかに自分のものとは違う足音に男は思わず足を止め、物陰に隠れるように身を潜めると息を殺した。そうする必要は無い筈なのに、身体が勝手にそう動いていた。……その理由が男にはわからない。

「……上手く気配を殺しているが、私には無駄だ」

近づいてきた足音が不意に止まると朗々とした声が城の中に響く。
明らかに自分が気取られているらしい、と認識はしたものの身を潜めたまま男はその言葉の続きを待った。

「私に気取られずやってくるとは上等な獲物かと思ったが……なるほど」
「……」
「いいだろう。好きにしていろ。城の一室程度なら貸してやる……まあ、もとより私の城でもないのだがな」

カツン。

言葉が終わるとほどなくして足音が遠ざかっていく。
どうやらこの城にいてもいいらしい、という事は理解した。しかし相手が何故それを許したのか、そして自分は何者なのか。

男にはなにもわからなかった。

『資料室』と書かれたドア看板の下に、『飲食厳禁　飲食はフードコートで』とか、『資料の外部持ち出し厳禁（館内は許可）』とか、そんなことが書いてある。
ここは水族館の資料室だ。あなたはここで様々な海の生き物の生態が書かれた本や、あるいは水族館職員のつけた記録を読むことが出来る。
――そして、この水族館には存在しないはずの、『人魚』という存在について、非常によく知ることが出来るだろう。

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*ユニオン購入は独断脳死予定*
*細かいことは以下のURL*

http://midnight.raindrop.jp/trieste/union.html