ENo.0160　Anny=Tolle

　女はおやつタイムにいつものコーヒーと素っ気ないクッキー…ではなく、生クリームで綺麗に飾り付けられたシフォンケーキを用意していた。
　心酔している主から少しだけ利益を出せた褒美だと渡されたそれを女は手をつけるのがもったいないと見ているばかりだったが、決心がついたのかようやくフォークで一口分に切り分けると口に運ぶ。

「……ん～～～～っ」

　己は男なのだと主張するがケーキを頬張り幸せそうに表情を蕩けさせている姿は全く説得力がない。
　当人はきっとそんな顔をしているとは気づいていないのだろう。指摘する者もいないので仕方のないことではあるのだが。

「ね――兄さん、成績見てきたンスけど俺ら一部門でトップでしたよ」
「ゴッフェッ――は！？トップ！？」

　ケーキをたっぷり味わいコーヒーで舌をリセットしようと口を付けたところで飛び込んできた報告に若干噴き出したが気にせず、女は慌てて席を立ち男の傍へと寄っていく。

「ほら、ここッス」

　男は丁寧に書き写してきた物を女に見やすいように寄せ、指を指す。
　それをじっくりと見つめたっぷりと時間を置いて本当ですね…と現実を受け入れられない女が独り言のように呟く。

「ね――兄さん、主様へ報告しなくていいンスか？お褒めの言葉、頂きたいンスよね？」
「そ、そうですね。呆けている場合じゃぁありませんでした。阿呆ですがたまには良いこと言うじゃないですか」

　阿呆はやめて欲しいッス…としょぼくれる男をガン無視で女は小走りでダイニングから出て行く。主様へ報告に向かったのだろう。

「……あ、ケーキ」

　男は女が用意し放置していってしまったそれらに気づくと、少し悩んだ後手に取る。

「乾いてたら姉さん、スゲー落ち込むッスよね…」

　コーヒーはどうにもならないッスねなどと言いながらケーキを保存する為か、キッチンへと向かっていった。

ペルレイシスとトトアを生み出した本来参戦すべき魔王の根城。

領域には丁寧に整えられた色とりどりの薔薇園とその中央に鎮座する巨大な蔓薔薇の蕾。
本来は真っ白だっただろう城壁には蔦がびっしりと張り巡らされて深緑に染まっている。

魔王が出てくることはほぼなく、城のどこかにあるプライベートルームに引きこもっているようだ。