ENo.0170　柳屋カスカ

コトハは寂しがりやの幽霊だ。広いダンジョンの中、人の集まりそうな店に出没しては、店員だろうが来店客だろうが見境なく話しかけ、店主に出禁をくらっていた。そうしたら、また次の店へ。そこも出入りできなくなったら、また次へ。そうやって、方々の店を渡り歩いてきた。
返答をもらえることは稀だった。無視されるか、怯えた顔で逃げられるか、大体この2通りだ。もう慣れっこだ。それでも、誰かの側にいて、誰かに話を聞いてもらうことが、コトハにとって一番の幸せだった。
開店準備中のこの店に目を止めたのは、ただの偶然だった。でも、誰かと"おしゃべり"が出来たのは、久しぶりだったから、コトハはしばらくこの店にいることにした。
人気のまるでない、開店前のお化け屋敷に。

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「…まあ、こんなもんかなあ」
どうやら店主の青年こと、柳屋カスカは開店準備を終えたらしい。コトハはぐるりと店内を見回した。新米魔王への支給品が無秩序に並べられ…というよりは、ただ積み重ねられているだけだったが、とりあえず店内に収まってはいた。お化け屋敷というよりは正直、ただのゴミ屋敷といった様相を呈していた。
感想を求められたので正直にそれを告げると、カスカは苦笑して言った。
「そうかも。片付け、昔から苦手なんだよね」
不意に部屋の隅で"べちゃり"と湿った音がして、二人は揃って振り返った。部屋の隅の暗がりで、派手な色のスライムが蠢いて、小さな蜘蛛を捕食していた。

「…けどきみのお陰で、なんとか"お化け屋敷"としてオープンできそう、かな。よかったよ」
そう言われると、悪い気はしない。はたして、ただ幽霊がいるというだけで、お化け屋敷を名乗れるのかどうかは置いておいて。数時間前、目敏くコトハのことを見つけたカスカがこれ以上ないくらい嬉しそうな表情を浮かべていたのは、記憶に新しかった。