ENo.0179　コンビニバイトとクソオーナー

　オーナーが言った。
「新しい店を、君に……任せたい」
　万年バイト生活で、不安定な暮らしに怯えていた俺は、ついに就職が出来ると喜んでいた。
　考えるべきだったのだ。そもそもここは、ワンオペがまかり通るブラックな職場だったのだから。



「というわけで、ここが君の、君自身の、“店”だ」
「……あのー、オーナー」
「不安は、わかる。新しいことは……いつだって不安に満ちてる。だが……だからこそ、君に任せたい。……その不安を感じられる、君に」
「いえあの不安とか不安じゃないとか以前に」

「ココ、ただの更地じゃないっすか」
「……」
　沈黙。あと静寂。それと停滞。オーナーは一度喫すると、煙を吐き出して笑った。
「……はっはっは。伊藤くん、あのね、新天地というのはいつだってまっさらなんだ」
「オイてめぇごまかしてんじゃねえぞ目ぇ逸らすなこれのどこが店だオラ」
「ブルーシートは用意してある。ぜひ、自由な発想で……経営を頼むよ」
「シートだけあって何が店なんだよあぁ！？ おいこら逃げんな！逃げんなクソオーナーッ！」

　後で知った話だが、元居た店舗は赤字経営で、営業すればするほど金がなくなっていく状況らしい。だから、新しく元手がかからない店を作って回収したかったんだそうだ。
　……いや無理だろ、馬鹿じゃねえのか。