ENo.0053　フィリリ

「魔王っち～☆今週の購入費なんだけどぉ。」

経理を任せている《あなたのプリンセス》──姫子と名乗っている──が間延びした声をかけると、
カウンターであくびをしていたフィリリが振り返る。

「姫子ちゃんおつかれ～。どうしたの？」

「ンー。この魔力炉ってやつ、買っちゃっていいの？
　貯めたお金がパーッと無くなっちゃうよ？」

「うん、いいんだ。
　稼いだお金をずっと貯めておいても仕方がないよ。お金は使わなくちゃ。
　──“１５週の向こう”で、お金を使えるかどうかわからないしね。」

姫子は「んん。」とくぐもった声を漏らし、
きれいに整えられた爪をいじりながら応える。

「それって、まるで──つまり魔王っちは……。
　『滅びちゃうかも』って、思ってるんだ？」

「……。」

フィリリは頷く。

「そっかぁ。でも、皆……魔王っちも、
　そうしないために頑張ってるんだょね？お店、閉めたりしないょね？」

「……。　うん。そうだよ。」

「わかった。それじゃ……わかった。」

姫子はまだ何か言いたげだったが、フィリリが前髪の向こうからじっと見つめるような気配に、
その視線に、なぜかわからないが逃げ出したくなって。
そうして、ぱたぱたとカウンターを離れる。



「……。」

フィリリの尾が、ぱしりと床を叩いた。

《砂風呂屋》の奥、《魔王以外立ち入り禁止》の扉を開くと、ぽっかりと在る空間。
公園のお砂場、プライベートビーチ、あるいは砂丘、砂漠、そんなところ。



今週の作品　『---』

＊しばらく誰も立ち入らなかったようだ。何の気配もない。