ENo.0260　ペルシーナ

ポロリ、と欠けた『それ』を、中から俯瞰する。

『…脆すぎる』

絶対に逃げられない。絶対に忘れられない。故に隠れた、故に閉じ込めた。なのに、『それ』は早くも欠け始めた。ああなんて屈辱的な。…でも。
殺された心には、それを屈辱と思う事さえ出来なかった。



※※※



夢の彼方で、声が聞こえる。

「ーーが、塵芥のーーでーに触ーーな！！！ーを堕ーすー、身ーーーを知ー…！！！」
「残念ねえ。らしくもない。まさか『ー殺ー』のー処ーが『消滅してる』なんて、飛んだ笑い草ねえ。威厳も畏怖もあったもんじゃないわ、ねえ『ーーの外ー』？」
「ーさーい、ーさなー……！！！お前がーーに降る時に、この怨みーーーにしてーわせてやる…！！！」
「よく吠えるわねえ、無様なことだわ。貴方は堕ちたのよ、もう二度と這い上がれぬ所にね。せいぜい私の為に尽くしなさいな、用済みになったらーーー」

「ああ、そうなっても先に消えるのは私か。貴方、永遠に『ーー』のーー装置確定ね。ハハハ、無様なこと…これがかの『ーーの外ー』の末路だなんて、ハハハハハーーーー」

直後、別の声が聞こえた。先ほどの女はおらず、二人の男の声が。

「櫂瑜、こっちの書斎の本棚隠し扉だ。地下への通路とーーー尋常じゃねえ気配がある」
「ナイスルドガー。こちらでも確認できた、ここから例のポイントに繋がる空間がある」
「あいよ。ローゼリアには連絡を飛ばした、二人で踏み込めとよ。櫂瑜お前が先行してくれ、いざという時お前の方が対処の幅もある」
「任せろ。…しかし無駄に複雑にしやがって、ポイントはほぼ直下だってのに入り組みすぎだ」

途絶える声と、近づく足音。その足音が、目の前で止まった。

「……酷い有様だな」
「ついに見っけたけどよ、お前これどうする？ローゼリアなんて言ったっけ？」
「可能な限り保護しろとよ。とりあえず各種拘束が解除出来るか試す」
「りょーかい。そこのーーしてる奴、中は『ーーー塊』何だからマジ気をつけてくれや」

かちゃかちゃと、様々な拘束が解かれていく音がする。その全てが解かれた瞬間だった。

「ルドガー下がれ！！解除は成功したが……！！」
「ーーー様が『アレはーラーー高えーだ、もしかしたらもうーーてるかもな』つってたけどよ、ドンピシャか！？」
「だろうな、自分の意思でーーしてる！！『ーーのー』をーーたのが裏目にーー……！！」



※※※



(……また、あの妙な夢か)

寝床から身を起こすと同時に、軽く頭を抑えながらため息をつく。せっかくの朝が台無しだ。
しかし、またあの夢…ではあるが。

(前よりも、鮮明になった…ような…？)

ような、ではない。ほぼ間違いなく鮮明になった…というか、前は見なかった夢を見た。その部分で最も引っかかった言葉を、反復するように口からこぼす。…どうして、彼女はあんなことを？

「先に消えるのは私、か……」

よく、分からない。当然だ。そもそも記憶を失っているというのに、あの夢に心当たりがあるはずもない。…だけど冷静に、無難に考えて。
あの夢はきっと、失った過去と関係があるのだろう。そうだとしたら。

「妾の過去は、消えてはおらぬと…」

宵闇の奥に隠されただけで、まだ見つけられるかもしれない。そしてどうやら自分は、それを見つけたいらしかった。





【-- Break Memory --】: 交流メッセージにより、記憶の切欠が解放されましたーーー

ペルシーナ城所属の護衛ユニット労働組合。今のところ不満はないようだが・・・。